• 「また新人が辞めてしまった…」
  • 「最近の若者は辛抱が足りない」
  • 「採用担当者は、一体どこを見ているんだ!」

社長であるあなたは、そう嘆き、採用担当を叱責した経験はありませんか?

時間とコストをかけて採用した人材が、数ヶ月で去っていく。そのたびに、現場は疲弊し、会社の成長は鈍化します。これは、多くの中小企業が抱える深刻な悩みです。

しかし、もしその根本原因が、社長であるあなた自身が良かれと思って設定した「採用部門の評価制度」にあるとしたら…?

今回は、多くの会社が見過ごしている、早期離職問題の「不都合な真実」についてお話しします。

犯人は「採用人数」というゴール設定

社長であれば、事業計画を立てる際、当然「今年は〇人、新しい人材が必要だ」と考えます。そして、その目標を採用部門に課すでしょう。「今期は10名採用してくれ。達成したら評価する」と。

一見、これは合理的です。目標が明確で、進捗も分かりやすい。

しかし、この「採用した人数」をゴールにすることこそが、早期離職という悲劇を量産する“元凶”なのです。

考えてみてください。

採用担当者の評価が「採用人数」で決まるなら、彼らはどう動くでしょうか?

  • 多少のミスマッチに気づいても、目標達成のために「質」より「量」を優先します。
  • とにかく内定承諾をもらうことがゴールになり、入社後の定着まで責任を感じにくくなります。
  • 会社の良い面ばかりを伝え、大変な部分を隠すなど、内定を得るための“過剰な演出”をしてしまいます。

これは、採用担当者が悪いのではありません。そうせざるを得ない「評価の仕組み」が、彼らをそうさせているのです。

結果として、入社した新人は「こんなはずじゃなかった」というギャップに苦しみ、あっという間に去っていきます。社長、あなたが作っているのは、人材が定着する強い組織ではなく、回転ドアのように人が出入りするだけの“ザル組織”かもしれません。

1人の早期離職で「数百万円」が消えている事実

「人が辞めるくらい、仕方ない」と思ってはいませんか?

その考えは、会社の現金をドブに捨てているのと同じです。1人の新人が早期離職することで、会社はこれだけのコストを失っています。

  • 採用コスト: 求人広告費、人材紹介料、採用担当者の人件費など(50万~150万円
  • 教育コスト: 研修費用、OJT担当者の人件費、備品代など(数十万円~
  • 見えないコスト: 周囲の社員の士気低下、連鎖退職のリスク、採用活動のやり直しコスト…

1人が3ヶ月で辞めただけで、簡単に200万円以上の損失が発生することも珍しくありません。年間で何人辞めていますか?その損失額を計算すれば、決して無視できない経営インパクトであることがお分かりいただけるはずです。

今すぐ、採用のゴールを「再定義」してください

では、どうすればいいのか?

答えはシンプルです。採用のゴール設定を変えるのです。

採用活動とは、単なる「頭数合わせの作業」ではありません。「会社の未来を共に創る仲間を探す、極めて重要な投資活動」です。

であるならば、評価すべきは「何人採用したか」という目先の数ではありません。

「採用した人材が、いかに定着し、活躍してくれているか」という、投資の成果そのものであるべきです。

今すぐ、採用部門の評価指標(KPI)を、以下のように変更・追加してください。

最重要KPI:入社後1年後の「定着率」

これを加えるだけで、採用担当者の意識は劇的に変わります。「長く活躍してくれる人材」を見極めようと、真剣に候補者と向き合い、会社の良い面も悪い面も正直に伝えるようになります。

さらに可能であれば、

  • 入社後のパフォーマンス評価
  • 配属先部署からの満足度

なども加えると、より採用の「質」は高まるでしょう。

採用を「コスト」から「未来への投資」へ

社長、あなたの役目は、目先の人数を揃えるよう指示することではありません。人材が定着し、育ち、会社と共に成長していける「仕組み」と「文化」を創ることです。

まずは、あなたの会社の採用部門が、何を目標に動いているかを確認してみてください。もし「採用人数」という呪縛に縛られているのであれば、それを解き放つ決断を下してください。

その決断こそが、無駄なコストの垂れ流しを止め、本当に強い組織を作るための、最も重要で、最も効果的な一歩となるはずです。