テレビ東京系の人気経営番組『カンブリア宮殿』(2026年2月5日放送回)でも大きな話題となった、京都の老舗「よーじや」。

あぶらとり紙の爆発的ヒットから一転、コロナ禍で売上が激減というどん底を経験した同社がいかにしてV字回復を遂げたのか。5代目社長・國枝昂氏が断行した「脱・観光業」のビジョン再定義は、変化の激しい時代を生き抜くすべての中小企業経営者にとって、極めて示唆に富むものでした。

今回のコラムでは、老舗の危機を救った「ビジョン刷新の力」を紐解きます。


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1. 「観光依存」という成功体験が招いた経営の脆弱性

かつての「よーじや」は、京都観光の代名詞でした。しかし、國枝社長はその状況を「極めて危うい」と見抜いていました。

  • 「一見さん」頼みの構造: 売上の9割が観光客で、地元のリピーターがほとんどいない。
  • 商品開発の硬直化: 観光シーズンに合わせて「あぶらとり紙」を売るだけのルーティン。
  • コロナ禍の直撃: 観光客が消えた瞬間、ビジネスモデルが完全に停止。

【経営のヒント】

自社の売上が「特定の外部要因(ブームや特定の取引先)」に依存しすぎていないか? 成功している時こそ、その「前提条件」が崩れた時のリスクを直視する必要があります。

2. ビジョンの再定義:お土産屋から「肌ケアの日常ブランド」へ

國枝社長が掲げたのは、「脱・観光依存」という衝撃的な方針でした。これは京都を捨てることではなく、「観光客がついでに買う店」から「日常的に使いたいブランド」へ進化するという宣言です。

項目以前(観光依存)刷新後(日常ブランド)
主要ターゲット京都を訪れる観光客地元住民・全国のリピーター
主力商品あぶらとり紙(お土産)ハンドクリーム、シャンプー(日常品)
購入頻度数年に一度毎月・毎日
存在意義京都の思い出日々の肌のしあわせ

「京都に来たから買う」ではなく、「よーじやだから買う」と言われる存在になる。

この明確な言語化が、バラバラだった社員の意識を一つに向けました。

3. 社員にビジョンを浸透させる「対話」の覚悟

ビジョンを掲げても、現場が動かなければ意味がありません。國枝社長が直面したのは、古参社員との軋轢や「未来を感じない」という不満でした。

  • 徹底した情報開示: 銀行から「このままでは潰れる」と言われた財務状況を包み隠さず伝え、危機感を共有。
  • ロゴ変更に込めたメッセージ: 伝統のロゴをあえて微修正(120年目のイメチェン)し、変わる姿勢を視覚的に示した。
  • スピード感ある商品開発: 現場の若手を起用し、170種類もの日常使いアイテムを次々と投入。

結果、かつて8割を占めたあぶらとり紙の売上比率は2割以下に。しかし、スキンケア商品や飲食事業がそれを補い、会社はより強固な体質へと生まれ変わったのです。

4. 中小企業経営者が明日から実践すべきこと

中小企業において、ビジョンは「飾り」ではありません。「自分たちは何屋で、誰を幸せにするのか」を再定義することで、攻めるべき市場が変わります。

  1. 「依存先」をリストアップする: 特定の客層や商品に頼りすぎていないか、売上構成を分解する。
  2. 「もし〇〇がなくなったら?」を問う: 今の主力武器が通用しなくなった時の、第二の柱を定義する。
  3. 社長自身の言葉で語り続ける: ビジョンは一度伝えて終わりではない。現場の反発を恐れず、何度も「なぜ変わるのか」を対話する。

「老舗とは、伝統を守るだけでなく、その時代の先端に挑戦し続けること」

カンブリア宮殿で語られたこの言葉は、歴史の浅い企業にとっても共通の真理です。市場が変わるのを待つのではなく、自らが「誰の、何のための存在か」を定義し直す。その勇気こそが、次の一手を切り拓きます。

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