一次公募の時に、非常に熱心な経営者様から、このようなご要望をいただくことがありました。

「自社のブランディングに合わせて、スライドの色味やフォントを変えたい」

「指定フォーマットは構成がわかりにくから、目次を変えてもっと流れを良くした」

お気持ちは痛いほど分かります。自社の事業への想いが強いからこそ、見た目にもこだわりたい。他社の申請書に埋もれたくない。そう思うのは自然なことです。

しかし、はっきり申し上げます。

その「こだわり」は、採択を勝ち取るためには「百害あって一利なし」です。

今すぐマウスを置き、フォントを選ぶのをやめてください。

今回は、なぜ「標準フォーマット」を崩してはいけないのか、審査員の心理からその理由を解説します。

1. 審査員は「間違い探し」のように書類を見ている

まず、審査員の状況を想像してみてください。彼らは短期間に膨大な事業計画書に目を通さなければなりません。

彼らの頭の中には、公募要領で指定された「標準フォーマットの構造(どこに何が書いてあるか)」が叩き込まれています。

  • 「左上に事業概要があるはず」
  • 「右下に市場規模の数字があるはず」

このように、予測しながら高速で情報を処理しています。

そこで、あなたが「独自のデザイン」や「珍しいフォント」「奇抜なレイアウト」を持ち込んだらどうなるでしょうか?

  • 「あれ? 探している数字がいつもの場所にない」
  • 「フォントが独特で読みにくい」
  • 「装飾が多すぎて、どこが重要か分からない」

審査員にとって、あなたの独自性は「情報の取得を阻害するノイズ」でしかありません。

読む側にストレスを与え、「わかりづらい申請書」というレッテルを貼られるリスクを、自ら作り出しているようなものです。

2. 「デザイン」で差別化する暇があるなら「市場調査」しろ

補助金のゴールは一つだけ。「採択されること」です。

「オシャレな資料だね」と褒められることではありません。

審査項目を見てください。「デザインの美しさ」や「ブランディングの統一感」という項目は1点もありません。

点数になるのは、以下のような本質的な要素だけです。

  • 市場調査の深さ(ニーズの裏付け)
  • 競合優位性の論理性
  • 収支計画の実現可能性

フォントの色を変えたり、見出しを装飾したりするのに1時間かけるなら、その1時間を使って「もう一件、見込み客にヒアリング」してください。あるいは「競合他社の価格調査」を行ってください。

見た目を飾るよりも、たった一つの具体的な「数字(ファクト)」を追加するほうが、審査員の心を動かし、採択率は確実に上がります。

3. 「地味」こそが最強のフォーマット

指定されたPowerPointのフォーマットは、確かに地味で素っ気ないかもしれません。

しかし、それは「誰が読んでも内容が頭に入ってくる」ように設計された、最も機能的な型なのです。

  • フォント: 標準のフォントを素直につかいましょう。
  • 色使い: 強調したい箇所に「赤」や「太字」を使う程度で十分。昭和のプレゼンみたく、派手な色使いは止めましょう。
  • レイアウト: 指定の枠からはみ出さない。

奇をてらう必要はありません。

「フォーマットは平凡、中身(事業計画)は非凡」

これこそが、採択される申請書の黄金律です。

まとめ:本質にリソースを集中せよ

審査員への一番の配慮は、美しいスライドを見せることではなく、「ストレスなくスムーズに読める資料」を提出することです。

  1. 指定フォーマットを絶対にいじらない。
  2. デザインや配色の工夫は全て捨てる。
  3. 浮いた時間は全て「中身(市場調査・数値根拠)」のブラッシュアップに使う。

「見かけ」で勝負しようとするのは、中身に自信がない証拠だと思われても仕方ありません。

御社の素晴らしい事業アイデアを、余計な装飾で曇らせないでください。


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