補助金で買った機械や建物は自由に使えない

「もし新規事業がうまくいかなくても、買った機械は既存事業のラインで使えばいい。建てた工場は倉庫にでも転用すればいい」。新規事業への投資を検討する経営者から、こうした声を聞くことがよくあります。撤退時の受け皿を考えておくのは、経営判断として健全な発想です。自己資金や融資で取得した資産であれば、その判断はまったく正しい。

しかし、補助金を使って取得した資産については、この発想がそのまま通用しません。国の補助金には「財産処分の制限」という共通のルールがあり、補助金で買った機械や建物は、事業計画に書いた事業以外に自由に使うことができないのです。しかも、その縛りは事業計画期間が終わった後も、場合によっては数十年単位で続きます。

私は静岡県伊東市で開業している行政書士・中小企業診断士で、補助金事務局では100件を超える事業計画を審査してきました。この記事では、「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の公募要領を素材に、財産処分制限の中身と、申請前の経営判断にどう織り込むべきかを整理します。数百万円から数千万円の投資判断に直結する話ですので、採択されてから知るのではなく、申請を考え始めた今の段階で押さえておいてください。

補助金で取得した財産には「財産処分の制限」がかかる

単価50万円以上の財産は「処分制限財産」になる

国の補助金には、補助金適正化法などの法令や各制度の交付規程に基づいて、補助事業で取得した財産の扱いを縛るルールが設けられています。たとえば新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の公募要領(第1回)では、補助事業により取得した財産のうち、取得価格または効用の増加価格が単価50万円(税抜き)以上の機械、器具その他の財産を「処分制限財産」とし、処分に制限を課すと明記されています。

ここでいう「処分」とは、公募要領の定義によれば、補助金の交付目的に反する使用、譲渡、交換、貸付、担保に供する処分、廃棄などを指します。売る、捨てるだけでなく、貸すことも、担保に入れることも、そして後述する「目的外の使用」も、すべて「処分」に含まれるのがポイントです。

なお、この仕組みは特定の補助金に固有のものではありません。小規模事業者持続化補助金でも、中小企業省力化投資補助金でも、国費が入る補助金には同種の制限が共通して存在します。金額の基準や細部は制度ごとに異なりますが、「補助金で取得した資産は自由に処分できない」という原則自体は、国の補助金全般に当てはまると考えておいた方がよいでしょう。

「処分」には売却や廃棄だけでなく「目的外使用」が含まれる

財産処分制限と聞くと、「勝手に売ってはいけない」というルールだと理解する方が多いのですが、実務で問題になりやすいのはむしろ「目的外使用」の方です。事業計画に書いた事業以外の用途に使うこと、それ自体が制限の対象になります。

公募要領の冒頭にある注意事項には、「補助事業により取得した財産は、原則として専ら補助事業に使用される必要があります」と、わざわざ赤字で書かれています。そして「専ら補助事業に使用」とは、新たに取り組む事業として事業計画書に記載されている事業にのみ使用することだと定義されています。過去から行っている既存の事業や、事業計画書に記載された事業とは異なる事業に取得財産を用いる場合には、「専ら補助事業に使用」しているとはみなされない、と明確に書かれているのです。

具体的に考えてみましょう。新事業向けに導入した加工機を、繁忙期だけ既存製品の生産ラインに回す。新事業用に建てた工場の空きスペースを、既存事業の在庫置き場として使う。どちらも経営の現場では自然に出てくる発想ですが、公募要領には、既存事業など補助事業以外で取得財産を用いた場合は補助金の交付目的に反する使用と判断し、残存簿価相当額等を納付いただく必要がある、と明記されています。つまり、事業計画に書いた事業以外で取得財産を使うこと自体が、実質的な補助金返還につながる納付の事由になるのです。「遊ばせておくよりは使った方がいい」という常識的な判断が、補助金の世界では違反になり得る。ここが最初の落とし穴です。

制限は「事業計画期間が終わっても」続く

「5年経てば自由になる」は誤解——基準は法定耐用年数

次に押さえたいのが、制限がいつまで続くのかという期間の問題です。多くの補助金では、補助事業の完了後、5年間にわたる事業化状況報告が義務付けられています。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金でも、補助事業を完了した日の属する年度の終了後を初回として、以降5年間にわたり計6回の報告が求められます。この「5年」という数字が独り歩きして、「5年経てば資産も自由になる」と誤解されがちです。

しかし、財産処分の制限期間は事業化状況報告の期間とは別物です。公募要領には、処分制限財産の処分を制限する期間は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」を準用すると書かれており、さらに「事業計画期間終了後であっても、法定耐用年数を経過するまでは処分に制限が課されます」と念押しされています。つまり基準は、報告義務の5年ではなく、その資産の法定耐用年数なのです。

機械で10年前後、建物なら数十年の付き合いになる

法定耐用年数は資産の種類ごとに省令で定められています。たとえば金属製品製造業用の機械設備であれば10年前後、鉄筋コンクリート造の工場や倉庫であれば30年を超える耐用年数が設定されているものもあります。機械であれば10年、建物であれば数十年にわたって、「その資産をどう使うか」に国のルールが関わり続けるということです。

とくに建物への補助を受ける場合は、この時間軸を軽く見ない方がよいと考えます。10年後、20年後の事業環境は誰にも読めません。事業の入れ替えや拠点の統廃合、事業承継といった局面で、「あの建物は補助金で建てたから動かせない」という制約が経営判断に影を落とす可能性まで含めて、補助金を使うかどうかを判断する必要があります。

承認と納付を経れば、処分できる余地はある

誤解のないように付け加えると、制限期間中は一切処分できない、というわけではありません。公募要領には、処分制限財産を制限期間内に処分しようとするときは、事前に事務局の承認を受けたうえで、残存簿価相当額または譲渡額等により、その財産に係る補助金額を限度に納付しなければならない、と定められています。裏を返せば、承認と納付という手続きを踏めば、転用や売却が認められる余地はあるということです。

ただし、承認には相応の時間がかかりますし、納付の負担も生じます。「いざとなれば承認を取って転用すればいい」という前提で投資計画を組むのは、手続きの負担と納付額を具体的に見積もったうえでなければ危険です。あくまで例外的な出口が用意されている、という程度に理解しておくのが実態に近いと思います。

無断の転用・売却は「返還」だけでは済まないことがある

では、承認を取らずに転用や売却をしてしまったらどうなるか。注意していただきたいのは、無断の場合、承認を受けた処分のように残存簿価相当額の納付では済まない可能性があることです。公募要領は「取得財産の目的外利用」を虚偽申請などと並ぶ不正行為の例として挙げており、不正と判明した場合には交付決定の取消、すなわち加算金を上乗せしたうえでの補助金全額の返還につながり得ます。悪質な場合には事業者名・代表者名・不正内容の公表にまで踏み込むとされています。交付決定の取消を受けた者には、補助金適正化法に基づき5年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性があることも明記されています。

無断であることの扱いを、より直接的に書いている制度もあります。たとえば中小企業成長加速化補助金の公募要領(2次公募)では、補助金適正化法等に違反する行為の例として「他の用途への無断流用」を明示したうえで、補助事業により取得した資産を既存事業など、事務局の承認なく補助事業以外で使用すること(目的外使用)は、補助対象外または交付決定取消になると明記されています。制度によって書きぶりは異なりますが、承認を得た処分は納付を条件に認められる余地がある一方、無断の処分は取消・返還・公表という不正の扱いに乗る。この二段構えは、国の補助金に共通する構造と考えてよいでしょう。

「黙っていれば分からないのでは」という考えも通用しにくくなっています。補助金の支払い後も、会計検査院や事務局が抜き打ちで実地検査に入ることがあると公募要領に明記されており、事業化状況報告も計6回続きます。取得財産が計画どおりの事業に使われているかは、継続的に見られている前提で考えるべきです。返還金額の問題以上に、事業者名の公表による信用毀損は、金融機関や取引先との関係に長く響きます。無断処分は、割に合わない選択です。

元審査員の視点——「転用前提」の投資は書類から透けて見える

ここからは、補助金事務局で審査員をしていた立場からの補足です。財産処分制限は採択後のルールですが、実は審査の段階から、この論点は事業計画の評価に関わっています。

審査する側から見ると、投資の中身と事業計画の対応関係は、計画の本気度を測る重要な手がかりです。導入する設備の能力や規模が、計画している新事業の生産量・売上計画と釣り合っているか。その建物の広さは、本当にその事業に必要な広さか。ここが曖昧な計画、たとえば「とりあえず大きめの設備を入れておけば、他の用途にも使えるだろう」という発想が透けて見える計画は、投資の必然性が弱いと映ります。公募要領にも、事業計画に対して過度な経費が見込まれているときや、妥当性の根拠が十分に示されない経費は補助対象と認めないと書かれています。

つまり、財産処分制限とは、審査の段階から一貫して問われている「その投資は、その事業に本当に必要か」という問いの裏返しでもあります。申請前に投資の必然性を突き詰めることは、採択の可能性を高めると同時に、採択後に「使い道に困る資産」を抱え込まないための備えにもなる。審査側と申請側の両方を見てきた立場から、この二重の意味を強調しておきたいと思います。

経営判断で押さえておきたい3つの視点

視点1:撤退シナリオまで含めて、申請前に検討する

補助金は、投資額の2分の1などが戻ってくる魅力的な制度です。しかし事業が想定どおりに進まなかった場合、「資産は残るのに、用途は縛られる」という状態になり得ます。導入する設備はその事業でしか使えない専用設備なのか、撤退時に承認と納付の手続きをしてでも転用する価値がある資産なのか。採択後ではなく、申請前に検討しておくべき論点です。

あわせて、保有コストも忘れないでください。この補助金では、少なくとも事業計画期間が終了するまでの間、補助事業で建てた建物や設備を対象に、補助率以上の付保割合を満たす保険または共済への加入が義務付けられています。資産を持ち続けることには、制限だけでなくコストも伴います。

視点2:補助金で建てた建物は、原則として担保に入れられない

資金調達への影響も見落とされがちです。処分制限財産である建物などに抵当権を設定することは「担保に供する処分」に当たるため、原則として認められません。補助事業を遂行するために必要な資金調達をする場合に限り、事前に事務局の承認を受け、担保権の実行時に納付をすることを条件に認められる、という建て付けです。しかも根抵当権の設定は認められず、抵当権の仮登記や登記留保も本登記と同様に扱われます。

「補助金で建てた工場を担保に、次の運転資金や追加投資の融資を受ける」という、一見当然に思える資金計画が制約を受けるということです。建物への補助を検討する場合は、申請段階からメインバンクにこの制限を共有し、中期の資金計画に織り込んでおくことをおすすめします。

視点3:困ったときは無断で動かず、まず事務局に相談する

事業環境の変化で計画どおりに進まなくなること自体は、決して珍しいことではありません。市場の変化、取引先の方針転換、人手の問題。計画を立てた時点では見えなかった事情が出てくるのは、むしろ普通のことです。そして、事務局への相談や承認の手続きを経れば、適法に対応できるケースは多くあります。

最も避けるべきは、報告や承認を怠ったまま転用・売却し、後日の実地検査で発覚することです。同じ「転用」でも、事前に相談したか、黙って動いたかで、その後の扱いはまったく変わります。困ったときこそ、動く前に相談。これが補助金と付き合ううえでの鉄則です。

まとめ:資産に付く「長期の制約」まで織り込んで判断する

補助金は、うまく使えば自己資金だけでは踏み切れない大胆な投資を可能にする、強力な制度です。だからこそ、「もらって終わり」ではなく、取得した資産に法定耐用年数ベースの長期の制約が付くことまで織り込んだうえで、活用の可否を判断していただきたいと思います。単価50万円以上の資産は処分制限財産になる、目的外使用も処分に当たる、制限は事業計画期間の終了後も続く、担保設定も原則できない。この4点を申請前に理解しているかどうかで、補助金との付き合い方は大きく変わります。

※本コラムは一般的な情報提供を目的とするものです。財産処分制限の具体的な取扱いは制度ごとに異なりますので、個別の補助金については各制度の公募要領・交付規程等を必ずご確認ください。

よくある質問(FAQ)

補助事業がうまくいかない場合、補助金で買った設備を既存事業に使ってもよいですか?

無断で使うことはできません。補助金で取得した財産は、原則として事業計画書に記載した事業にのみ使用する必要があり、既存事業への転用は補助金の交付目的に反する使用と判断され、残存簿価相当額などの納付を求められる可能性があります。転用が必要になった場合は、動く前に事務局へ相談し、承認の手続きを確認してください。

財産処分の制限は、いつまで続きますか?

資産ごとの法定耐用年数が基準になるのが一般的です。事業化状況報告の期間(5年間)が終わっても制限は終わらず、たとえば新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の公募要領には、事業計画期間終了後であっても法定耐用年数を経過するまでは処分に制限が課されると明記されています。機械なら10年前後、建物なら数十年に及ぶ場合もあります。

制限期間中に設備を売却・転用したい場合は、どうすればよいですか?

事前に事務局の承認を受けたうえで、残存簿価相当額または譲渡額等により、その財産に係る補助金額を限度とした納付を行えば、売却や転用が認められる余地があります。ただし承認には時間がかかり、納付の負担も生じるため、「いざとなれば転用できる」ことを前提に投資計画を組むのは避けた方がよいでしょう。

補助金で建てた建物を担保にして、融資を受けることはできますか?

原則としてできません。処分制限財産への抵当権設定は「担保に供する処分」に当たるためです。例外として、補助事業遂行のために必要な資金調達に限り、事前に事務局の承認を受け、担保権実行時に納付することを条件に認められます。なお根抵当権の設定は認められません。建物への補助を受ける場合は、資金計画への影響を金融機関と早めに共有することをおすすめします。

承認を受けずに転用や売却をした場合、どうなりますか?

残存簿価相当額の納付では済まない可能性があります。取得財産の目的外利用は不正行為の一つとされており、交付決定の取消、加算金を上乗せした補助金全額の返還、悪質な場合は事業者名などの公表に至るおそれがあります。補助金の支払い後も抜き打ちの実地検査が行われることがあるため、無断での処分は避け、必ず事前に事務局へ相談してください。

設備投資や建物への補助を、処分制限まで見据えて設計したい方へ

新事業進出・ものづくり商業サービス補助金や成長加速化補助金は、大型の設備投資や建物費まで対象になる分、財産処分制限の影響も大きい制度です。プラネット行政書士事務所(静岡県伊東市)は、補助金事務局で100件超の審査を経験した元審査員の中小企業診断士・行政書士が、投資の必然性の整理から撤退シナリオの検討まで含めて申請を支援します。オンラインで全国対応、伊東・静岡県東部の方は対面でも無料相談に対応しております。お気軽にお申し込みください。

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長野 利雄

長野 利雄 プラネット行政書士事務所 代表

  • 中小企業診断士
  • 行政書士
  • 採用定着士
  • 認定経営革新等支援機関

1971年山口県下松市生まれ、静岡県伊東市在住。
25年間、IT業界の東証プライム上場企業を中心に法人営業や企画部門に従事し、大手製造業向けにIoTやDXの導入を推進。2022年3月に日鉄ソリューションズ株式会社を退社後、プラネット行政書士事務所を開業。

中小企業のお客様へビジネス経験を活かした事業計画の策定や採用定着を支援。(公財)千葉県産業振興センターでの補助金受付業務(嘱託)や補助金事務局での審査の経験がある補助金専門家として活動中。「創業手帳」等の補助金解説記事の監修も担当。2026年6月に千葉県市川市から静岡県伊東市へ移住。オンラインで全国のお客様を引き続きご支援しつつ、温泉三昧の日々も満喫。

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