伊東市の採用力強化補助金

「求人サイトに掲載料を払っているのに、応募がまったく来ない」「やっと採用できたと思ったら、数ヶ月で辞めてしまった」——採用専任の担当者を置けない中小企業の経営者から、こうした声を本当によく聞きます。人手不足が続くなか、採用にかけたお金が成果につながらないもどかしさは、多くの会社に共通する悩みです。

伊東市には、この求人活動の経費を支援する「中小企業等採用力強化事業補助金」があります。採用情報ウェブサイトの開設・改修、就職情報サイトへの掲載、人材紹介会社の成功報酬などにかかった経費の2分の1、上限5万円を市が補助する制度です。

「なんだ、たった5万円か」と思われた方も多いでしょう。正直に言えば、採用市場の相場から見て大きな金額ではありません。しかし本記事でお伝えしたいのは、金額の多寡ではなく、この補助金は申請の過程そのものが「採用のやり方を見直す機会」になる、ということです。求人広告会社への丸投げを続けるか、それとも自社に合う人を採るための採用戦略を組み立て直すか。5万円の使い道を考えることは、その分かれ道に立つことでもあります。

本記事では、静岡県伊東市を拠点に補助金事務局で100件超の審査を経験した中小企業診断士・行政書士であり、採用定着士として中小企業の採用支援も行っている立場から、制度の要点と、5万円を最大限に活かす使い方を解説します。

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伊東市の採用力強化補助金とは:制度の要点

対象となる事業者

正式名称は「伊東市中小企業等採用力強化事業補助金」。安定的な雇用の確保を進めるため、人材確保を目指す中小企業者等を支援する制度です。対象は伊東市内に事業所を有する中小企業者等で、株式会社などの会社に限らず、社会福祉法人・医療法人・NPO法人といった各種法人も含まれます。介護施設や保育園、観光関連の法人など、まさに人手不足に直面している市内の幅広い事業者が使える設計です。

ただし、市税を滞納していないこと、いわゆる「みなし大企業」でないこと、風俗営業等の特定業種や暴力団関係でないことなどの要件があります。申請前に対象要件チェック表で確認する流れになっています。

伊東市は観光・宿泊・飲食のウェイトが高く、介護や建設も含めて、そもそも採用競争の厳しい業種が集まる地域です。近隣のより通勤しやすいエリアや大手チェーンと同じ条件で人を取り合えば、分が悪いのは目に見えています。だからこそ市が「採用力の強化」に補助金を出している、という背景はおさえておきたいところです。

対象となる経費と金額

補助の対象は、正規雇用職員の安定確保のための求人活動に要する経費です。具体的には次のような取組が挙げられています。

採用情報ウェブサイトの開設・改修、就職情報サイトへの掲載、企業説明会への出展、インターンシップの募集、人材紹介会社の成功報酬型利用——。求人にお金がかかる場面は一通りカバーされていると言ってよいでしょう。

補助率対象経費の2分の1以内(1,000円未満切り捨て)
上限額1事業者あたり5万円
申請期間令和8年4月1日〜令和9年2月26日(予算が上限に達し次第、前倒しで終了の可能性あり)
窓口伊東市 産業課 商工労働係

手続きの流れ:申請は必ず「事業着手前」

手続きは、①事業に着手する前に交付申請書・計画書・収支予算書・見積書等を産業課に提出、②交付決定後に事業を実施、③事業完了後に実績報告書類を提出、④さらに申請翌年度の3月末までに採用状況報告書を提出、という流れです。

ポイントは「事業着手前」の申請が必須であることと、お金を使って終わりではなく、翌年度に採用の状況まで報告する建付けになっていることです。この2点は後ほど詳しく触れます。

「上限5万円」をどう受け止めるか

採用コストの相場から見れば、確かに小さい

まず現実を直視しましょう。大手就職情報サイトの掲載料は、プランにもよりますが数万円から数十万円。人材紹介会社の成功報酬は、採用者の理論年収の3割前後が相場と言われ、1人採用すれば100万円近くになることも珍しくありません。この世界で5万円は、率直に言って、掲載料1回分の一部を埋める程度の金額です。

「その程度なら、書類を書く手間のほうが高くつくのでは」——そう考える経営者がいても不思議ではありません。実際、金額だけを目当てにするなら、割に合わないと感じる場面もあるでしょう。

一方で、対象経費の顔ぶれを見ると、企業説明会への出展料やインターンシップの募集経費といった、数万円単位の取組も含まれています。この規模の支出であれば、経費の半分を市が持ってくれる意味は決して小さくありません。つまりこの補助金は、「大きな採用予算の足し」としてではなく、「小さく始める採用改善の後押し」として見たときに、ちょうど収まりが良い制度なのです。

同じ5万円でも「掛け捨て」と「資産づくり」では意味が違う

しかし、対象経費のリストをもう一度見てください。「就職情報サイトへの掲載」や「人材紹介会社の利用」は、外部にお金を払って終わる、いわば掛け捨て型の支出です。一方、「採用情報ウェブサイトの開設・改修」は、自社に残り続ける採用の基盤への投資です。同じ5万円の補助でも、どちらに充てるかで意味がまったく変わります。

これまでどおり求人広告費の足しにするのか。それとも、これを機に自社の採用サイトや求人原稿という「資産」を整えるのか。補助金の使い道を考えることは、自社の採用活動がコストの垂れ流しになっていないかを棚卸しすることでもあります。上限5万円という金額は、大きな投資判断を迫らない代わりに、この棚卸しを始める入口としてはちょうどよいサイズだと私は考えています。

もう一つ付け加えると、市の補助金は国の大型補助金に比べて書類がシンプルで、初めて補助金に取り組む事業者の練習台としても向いています。ここで交付申請から実績報告までの一連の流れを経験しておくと、将来、持続化補助金など国の制度に挑戦するときの土台になります。

審査する側から見ると:少額でも「計画書」を書かせる意味

市が見ているのは「支出」ではなく「採用につながったか」

私は補助金事務局で100件を超える事業計画の審査を担当してきましたが、その経験から言えるのは、補助金の書類構成には制度設計者の意図が表れる、ということです。この補助金は、上限5万円という少額にもかかわらず、申請時に計画書と収支予算書を求め、事業後に実績報告を求め、さらに翌年度の3月末に採用状況報告書まで求めます。

つまり市が確認したいのは、「お金を正しく使ったか」だけではありません。「その求人活動は、計画に基づいて行われ、実際に採用という成果につながったのか」まで見る建付けです。補助金を出す側は、掲載料の領収書がほしいのではなく、市内の事業者に人が定着してほしいのです。

逆に言えば、「とりあえず求人サイトに載せる費用の足しにしよう」という発想のままでは、計画書を書く手が止まるはずです。誰を、何人、いつまでに、どんな方法で採用するのか。その経費はいくらで、効果をどう見込むのか。この問いに答えられないと、計画書の欄は埋まりません。書けないとすれば、それは書類の問題ではなく、採用活動そのものが計画になっていないというサインです。

計画書を書く際のコツを一つだけ挙げるなら、「経費と目的の対応関係」を明確にすることです。書類を確認する側の目線では、なぜその媒体・その業者を選んだのか、見積の金額は取組の内容に見合っているか、その支出が採用にどうつながるのか、という筋の通り方を見ます。国の大型補助金でも市の少額補助金でも、この見方の基本は変わりません。「就職サイトに載せたいから」ではなく、「こういう人材を採るために、この方法が最適だから」という順番で書けているかどうか。それだけで書類の説得力は大きく変わります。

つまずきやすい3つのポイント

手続き面で注意すべき点を3つ挙げます。第一に、交付申請は事業着手前が絶対条件です。求人サイトに申し込んだ後、制作会社に発注した後では、原則として対象になりません。「先に使って後から申請」は補助金全般で最も多い失敗パターンです。

第二に、申請には見積書などの添付書類が必要なので、業者選定と見積取得の時間を織り込んでおくこと。申請期間は令和9年2月26日までですが、予算が上限に達すれば前倒しで締め切られる可能性があります。使うと決めたら早めに動くべきです。

第三に、翌年度3月末の採用状況報告書を忘れないこと。補助金を受け取って終わりではなく、報告までが補助事業です。年度をまたぐ義務は担当者の交代などで抜け落ちやすいので、受給時にリマインダーを設定しておくことをおすすめします。

5万円を機に見直したい「求人広告への丸投げ」

応募が来ない求人には共通点がある

採用支援の現場で応募が来ない求人を見ていくと、共通点があります。求人広告会社に言われるまま大手サイトの広告枠を買い、原稿は「アットホームな職場です」「風通しの良い社風です」といった、どこの会社にも当てはまる言葉で埋められている。検索結果の上位は資金力のある大企業が占め、給与や休日といった条件面の比較では中小企業に勝ち目がない。つまり、大手と同じ土俵で、大手と同じ戦い方をしてしまっているのです。

求人広告会社が悪いという話ではありません。ただ、広告会社の役割はあくまで広告枠の販売と掲載であり、貴社が「誰を採るべきか」を考えることや、応募後の面接、入社後の定着までは、基本的に守備範囲の外です。そこを丸投げしてしまうと、掲載料だけがかさみ、採れない・辞めるのサイクルから抜け出せなくなります。

「優秀な人」ではなく「自社に合う人」を定義する

では何から始めるか。私が採用定着士としてお伝えしているのは、求人原稿を書く前に「採用ペルソナ」を言語化することです。3年後の経営目標から逆算して、どんな仕事を任せたいのか、そのためにどんな価値観・経験を持つ人が必要なのかを具体的な人物像に落とし込む。狙うのは、スペックの高い「優秀な人」ではなく、社長の価値観や会社の文化に共感して長く働いてくれる「自社に合う人」です。

ペルソナが定まると、求人原稿は変わります。誰にでも向けた無難な文章ではなく、その一人に刺さる言葉、その一人が「ここで働きたい」と思う写真を選べるようになる。条件面で大手に劣っていても、相性で選ばれる求人は作れます。むしろ応募は多くなくてよいのです。合わない100人の応募より、合う1人の応募のほうが、面接の工数も入社後の定着率も、はるかに良い結果をもたらします。

お気づきかもしれませんが、この作業——誰を、なぜ、どうやって採るのかの言語化——は、先ほどの補助金の計画書に書く中身そのものです。採用戦略の再定義と補助金の交付申請は、別々の仕事ではなく、同じ一つの作業なのです。だからこそ、この補助金は「書類仕事が増える制度」ではなく「採用を見直すきっかけをくれる制度」として使うのが正解だと考えています。

求人原稿を見直す3つの着眼点

ペルソナを定めたうえで求人原稿に手を入れるなら、着眼点は3つです。1つ目は競合調査。同じ職種・同じエリアの求人を実際に並べて読んでみてください。自社の原稿が他社とほとんど同じ言葉で書かれていることに、まず驚くはずです。違いが書かれていない求人から、求職者が違いを読み取ることはできません。

2つ目は、社員への本音のヒアリングやアンケートです。「なぜこの会社に入ったのか」「なぜ辞めずにいるのか」。経営者にとっては当たり前すぎて気づけない自社の魅力は、たいてい社員の言葉の中にあります。それをそのまま原稿の素材にするのです。

3つ目は、写真とキャッチコピーの具体性です。素材集のイメージ写真ではなく、実際の職場と実際の社員が写った一枚。「アットホームな職場」ではなく、狙った一人に「これは自分のことだ」と思わせる一行。補助金の対象である採用サイトの開設・改修に取り組むなら、この水準まで作り込んで初めて、投資と呼べるものになります。

採用のゴールは「入社日」ではなく「定着」

もう一点。この補助金が翌年度に採用状況の報告を求めていることからも分かるとおり、採用は入社日がゴールではありません。一般に、入社後3ヶ月程度が定着するかどうかの最重要期間と言われます。応募への初動対応、面接での相互理解、内定の出し方、入社直後の受け入れ体制と1on1。ここまで設計して初めて、採用にかけたお金は回収できます。せっかく補助金を使って採用した人が数ヶ月で辞めてしまえば、5万円どころか、かけた費用と時間のすべてが振り出しに戻るのですから。

特に見落とされがちなのが、応募直後の対応スピードです。人手不足の売り手市場では、求職者は複数の会社に同時に応募しています。応募から連絡までに数日空けば、その間に他社が面接まで進めてしまう。応募が来たら誰が・いつまでに・どう連絡するのかという社内ルールを決めておくだけで、面接につながる率は変わります。求人原稿にいくら投資しても、この初動が遅ければ水の泡です。

まとめ:金額ではなく、使い方で価値が決まる補助金

伊東市の採用力強化補助金は、上限5万円という金額だけを見れば小さな制度です。しかし、事業着手前に計画を書かせ、翌年度に採用の結果まで報告させるその建付けは、場当たり的な求人を計画的な採用投資に変える仕掛けとして読むことができます。

伊東市内で正社員の採用を考えているなら、申請を検討する価値は十分にあります。ただし、順番を間違えないでください。先に求人サイトや制作会社に申し込んでしまえば対象外です。まず採用のやり方を見直し、計画を立て、着手前に申請する。5万円の補助金を、貴社の採用が変わるきっかけにしてください。

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プラネット行政書士事務所は、伊東市の行政書士・中小企業診断士・採用定着士の事務所です。採用ペルソナの言語化から求人原稿の作成、面接指導、入社後の定着までを一貫して伴走する「採用定着サポート」を提供しており、伊東市の採用力強化補助金の申請手続きもあわせてサポートできます。まずは無料相談から、お気軽にお申込みください。

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長野 利雄

長野 利雄 プラネット行政書士事務所 代表

  • 中小企業診断士
  • 行政書士
  • 採用定着士
  • 認定経営革新等支援機関

1971年山口県下松市生まれ、静岡県伊東市在住。
25年間、IT業界の東証プライム上場企業を中心に法人営業や企画部門に従事し、大手製造業向けにIoTやDXの導入を推進。2022年3月に日鉄ソリューションズ株式会社を退社後、プラネット行政書士事務所を開業。

中小企業のお客様へビジネス経験を活かした事業計画の策定や採用定着を支援。(公財)千葉県産業振興センターでの補助金受付業務(嘱託)や補助金事務局での審査の経験がある補助金専門家として活動中。2026年6月に千葉県市川市から静岡県伊東市へ移住。オンラインで全国のお客様を引き続きご支援しつつ、温泉三昧の日々も満喫。

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