
「プロダクトはできた。あとは実際の現場で試したいのに、場所を貸してくれる相手が見つからない」。スタートアップの経営者から、こんな悩みを聞くことがあります。創業したばかりの方からは「支援策がいろいろあるのは分かったが、結局どれが自社に合うのか分からない」という声も聞きます。
静岡県が実施している「CO-LAB Shizuoka(静岡県実証実験サポート事業)」は、地域課題の解決につながる実証実験を県内で行うスタートアップを支援するプログラムです。補助率2分の1・上限200万円の経費補助が付くため、「静岡 スタートアップ 補助金」と検索してこの制度にたどり着いた方も多いと思います。
ただ、最初にお伝えしたいことがあります。この制度、「200万円もらえる補助金」として見ると本質を見誤ります。CO-LAB Shizuokaの価値の中心はお金ではありません。それに、いまの貴社に必要なのはCO-LABではなく、別の補助金かもしれません。事業のステージが違えば、使うべき制度も変わるからです。
本記事では、補助金事務局で100件超の審査を担当した経験を持つ、静岡県伊東市の行政書士・中小企業診断士が、CO-LAB Shizuokaという制度の性格と、小規模事業者持続化補助金〈創業型〉・新事業進出・ものづくり補助金との使い分けを解説します。
CO-LAB Shizuokaは「補助金」というより「実証の場」
支援の本体は実証フィールドと地域パートナーへの接続
まず制度の概要から。CO-LAB Shizuokaは、静岡県内の自治体や企業といった「地域パートナー」が抱える課題に対して、スタートアップが自社のサービスやプロダクトで解決に挑む実証実験を支援するものです。令和8年度の内容を整理すると次のとおりです。
| 対象 | 全国のスタートアップ(法人設立から15年未満、または実証するサービス・プロダクトの開発着手から10年以内の中小企業。詳細は公募要領で要確認) |
| 支援内容 | 実証フィールドの提供/実証実験の実施方法に関するアドバイス/地域パートナーのネットワークへの接続/PR支援 |
| 経費補助 | 補助率1/2・上限200万円 |
| 募集期間 | 令和8年7月21日〜8月21日 |
| 実証事業期間 | 補助金交付決定日〜令和9年2月末日 |
| 審査 | 書類審査→プレゼンテーション審査(10月下旬)→採択結果公表(11月上旬) |
ここで見てほしいのが、支援内容の欄です。経費補助は4つある支援のうちの1つで、柱になっているのは実証フィールドの提供と、地域パートナーへの接続です。この制度が解決しようとしているのは資金不足ではなく、スタートアップが自力では突破しにくい「試す場がない」「現場を持つ相手とつながれない」という壁だと読めます。
自治体や地域企業に自分で声をかけて、実証の場を貸してもらえるよう交渉する。やったことのある方なら、これがどれだけ時間のかかる仕事かご存じでしょう。その橋渡しを県が引き受けて、PRまで手伝ってくれる。この制度の実質的な価値はそこにあります。200万円は活動を支える裏付けであって、主役ではありません。
向いている会社・向いていない会社
では、どんな会社が応募を検討すべきでしょうか。向いているのは、次のような会社です。
- MVP(検証可能な最小限のプロダクト)や具体的なアイデアがすでにあり、現場で試したい
- 導入実績の「第一号」がほしい
- 静岡県外から、静岡を実証の足がかりにしたい(対象は全国に開かれています)
一方、次に当てはまるなら、いったん立ち止まったほうがよいと思います。
- 「補助金がもらえるなら」が応募の主な動機になっている
- 実証したいテーマや仮説がまだ固まっていない
- 製品はすでに完成していて、いまは「売る段階」にいる
スケジュールを見ると、採択の公表が11月上旬で、実証期間の終わりが令和9年2月末。実質的に動けるのは4ヶ月足らずです。この短い期間で地域パートナーと調整し、実証を回して結果を出すことになります。テーマが固まっていない状態で採択されても、期間を消化するだけで終わりかねません。また、売る段階に入っている会社なら、後述する販路開拓系の補助金のほうが目的に合います。
令和8年度の募集は8月21日まで。間に合わないときは
令和8年度の募集期間は7月21日から8月21日までの約1ヶ月です。この記事を読んでいる時点で、締切が目前だったり、すでに過ぎていたりする方もいるでしょう。だからといって、慌てて中身の薄い書類を出すのは考えものです。書類審査とプレゼン審査を通る提案には、それなりの作り込みが要ります。準備不足の応募は、時間を失うだけに終わりがちです。
間に合わない場合の選択肢は2つあります。1つは、来年度以降の公募を見据えて、地域課題のリサーチと実証テーマの仮説づくりを今から始めておくこと。実証系のプログラムは、準備期間の長さがそのまま提案の質に出ます。もう1つは、自社のステージにはCO-LABより別の制度が合っているのではないか、と考え直してみることです。次の章で、その使い分けを整理します。
持続化補助金〈創業型〉・新事業進出補助金との使い分け
判断軸は「事業のステージ」
「静岡で創業したら、どの支援策を使えばいいですか」と聞かれたとき、私は制度の名前からではなく、事業のステージから考えるようお伝えしています。大きく分けると3段階です。
- 検証の段階:プロダクトが本当に顧客の課題を解決するのか、現場で確かめる時期。CO-LAB Shizuokaのような実証支援が候補になります。売上はまだ立たなくてよい代わりに、仮説と検証の設計が問われます
- 販路開拓の段階:売るものが固まり、顧客を増やす時期。小規模事業者持続化補助金〈創業型〉が候補です。ウェブサイトや広告、展示会出展など、「売る活動」に軸足があります
- 事業化・投資の段階:需要が見えて、生産体制や設備に本格的に投資する時期。新事業進出・ものづくり補助金のような設備投資型の補助金が候補になります。金額が大きい分、求められる事業計画の完成度も上がります
こう並べると、「CO-LABと持続化補助金、どちらが得か」という比較にあまり意味がないことが分かると思います。問うべきは、自社がいまどのステージにいるか。検証が済んでいないのに販路開拓の補助金で広告を打てば、刺さるかどうか分からない商品を宣伝することになります。反対に、検証段階の会社が設備投資型に挑んでも、計画の裏付けが足りず審査は通りません。
ステージをまたぐときの組み合わせ方
この3段階は、うまくつなげば一本のストーリーになります。CO-LAB Shizuokaで地域パートナーと実証を行い、成果と導入実績を得る。その実績を持って、翌年度に持続化補助金〈創業型〉で販路開拓を仕掛ける。需要が確認できたら、新事業進出・ものづくり補助金で量産体制や本格展開に投資する。そんな流れです。
補助金の審査において、過去の取組の実績は説得力のある材料です。「県の実証事業に採択され、地域パートナーとこういう検証を行い、こういう数字が出た」という事実は、次の事業計画書の何よりの裏付けになります。1つの補助金を単発で終わらせず、次のステージへの布石として使う。この視点があるかどうかで、同じ制度から得られるものは大きく変わります。
なお、同じ経費を複数の補助金で二重に受け取ることはできません。組み合わせる場合は「ステージごとに別の取組へ」が原則です。時期や経費の切り分けに迷ったら、申請前に専門家か各事務局に確認してください。
元審査員の視点:実証実験系の審査で落ちる提案の共通点
「技術の説明」で終わるプレゼンは通らない
私は補助金事務局で100件を超える事業計画の審査を担当してきました。その経験から、CO-LAB Shizuokaのようにプレゼン審査のある制度で応募者が陥りやすい失敗に触れておきます。
いちばん多いのは、自社の技術やプロダクトの説明に持ち時間の大半を使ってしまうパターンです。技術に自信があるほど、機能の先進性や開発の苦労を語りたくなります。ただ、審査する側が知りたいのはそこではありません。その技術が、この地域の、誰の、どんな課題を、どう解決するのか。この制度の主語はあくまで「地域パートナーが抱える地域課題」で、スタートアップの技術はその解決手段です。課題からではなく技術から出発する提案は、どれだけ技術が優れていても、制度の趣旨とかみ合いません。
審査員は1日に何件もの提案を聞きます。印象に残るのは、機能一覧の立派なスライドではなく、「現場のこの困りごとが、実証の後にはこう変わる」という絵が具体的に見える提案です。技術の説明は、その絵を支える最小限で足ります。
審査側が見る「検証設計」と「相手側のメリット」
もう1つ、実証実験系の提案で差がつくのが検証設計です。「実証します」とだけ書かれた計画は、評価のしようがありません。審査側が確認したいのは、たとえば次のような点です。
- 何を仮説として立てているか
- どんなデータを、どうやって取るのか
- 何がどうなれば「成功」と判断するのか
- 期間内に検証を終えられる規模になっているか
先ほど触れたとおり、この制度の実証期間は実質4ヶ月足らずです。審査側は「この計画は期間内に本当に回り切るのか」を現実的な目で見ています。欲張った計画より、小さくても検証がきちんと閉じる計画のほうが評価されます。
見落とされがちなのが、地域パートナー側のメリットです。実証実験は、スタートアップにとってはデータと実績を得る機会ですが、フィールドを提供する側には現場の負担が生じます。相手の業務にどんな負荷がかかり、それを上回るどんな価値を返せるのか。そこまで書き込まれた提案は、「この会社となら組める」という信頼につながります。自社が得るものしか書いていない提案は、「これは地域課題の解決なのか、それとも単なる自社の営業なのか」という疑問を審査の場で招きます。
こうした見方は、CO-LAB Shizuokaに限った話ではありません。持続化補助金でも、新事業進出・ものづくり補助金でも、審査とは突き詰めれば「この計画は本当に実行され、狙った成果につながるか」を書面とプレゼンから判断する作業です。誰の課題を、どう解決し、何をもって成功とするか。この筋が通っている計画は、どの制度でも強いものです。
静岡県東部・伊東・伊豆で創業・実証を考えるなら
静岡県東部・伊東・伊豆エリアには、観光業の人手不足、高齢化と交通、宿泊業のDXの遅れなど、全国の地方が抱える課題が凝縮されています。スタートアップの目で見れば、実証テーマの宝庫です。都市部では数ある選択肢の1つとして埋もれてしまう技術やサービスが、この地域では「待たれている解決策」になることがあります。
この記事を読んでいるのが地域の事業者の方なら、「課題を持つ側」として実証に関わる道もあります。自社の現場の困りごとが、スタートアップの技術で解決されるかもしれません。実証の受け入れは、費用をかけずに最新のサービスを試す機会にもなります。
当事務所は静岡県伊東市の行政書士・中小企業診断士の事務所です。創業期の相談から補助金の事業計画づくりまで、オンラインで全国に対応しています(静岡県東部・関東近県は対面も可能です)。代表はIT業界で25年働いてきましたので、テクノロジー系の事業計画も技術の中身から理解した上でお手伝いできます。
まとめ:制度の名前ではなく、自社のステージから選ぶ
CO-LAB Shizuokaは、上限200万円の補助金である以上に、「実証の場」と「地域パートナーへの接続」を提供してくれる制度です。検証段階のスタートアップには得がたい機会ですが、販路開拓や設備投資の段階にいる会社なら、持続化補助金〈創業型〉や新事業進出・ものづくり補助金のほうが目的に合います。
大事なのは「どの制度が得か」ではなく、「自社はいまどのステージにいるか」。そして1つの制度を単発で終わらせず、実証、販路開拓、事業化という流れの中に位置づけることです。静岡で事業を育てていくなら、この視点で支援策と付き合ってみてください。
よくある質問(FAQ)
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CO-LAB Shizuokaは静岡県外のスタートアップでも応募できますか?
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応募できます。対象は全国のスタートアップです。静岡県内に拠点がなくても、県内で地域パートナーの課題解決につながる実証実験を行うのであれば制度の想定内です。ただし法人設立から15年未満などの要件があるため、詳細は最新の公募要領で確認してください。
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補助金(上限200万円)だけが目的でも応募する価値はありますか?
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おすすめしません。この制度の柱は実証フィールドの提供と地域パートナーへの接続で、経費補助は支援メニューの1つにすぎません。実証したいテーマが固まっていない段階で採択されても、短い実証期間を消化するだけになりがちです。資金の補助が主な目的なら、自社のステージに合った別の補助金を検討するほうが合理的です。
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小規模事業者持続化補助金〈創業型〉とはどう使い分ければよいですか?
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事業のステージで判断します。プロダクトやサービスがまだ検証段階ならCO-LAB Shizuokaのような実証支援、売るものが固まって顧客を増やす段階なら持続化補助金〈創業型〉が候補です。実証で得た実績を翌年度の販路開拓の計画に活かすなど、時期をずらして両方を使う流れも考えられます。
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実証実験が終わった後、事業化の段階で使える補助金はありますか?
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あります。需要が確認でき、設備や体制に本格的に投資する段階では、新事業進出・ものづくり補助金などの設備投資型の補助金が候補になります。実証の成果や導入実績は事業計画書の説得力を高める材料になるため、実証の段階から次の申請を見据えてデータを残しておくことをおすすめします。
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長野 利雄 プラネット行政書士事務所 代表
- 中小企業診断士
- 行政書士
- 採用定着士
- 認定経営革新等支援機関
1971年山口県下松市生まれ、静岡県伊東市在住。
25年間、IT業界の東証プライム上場企業を中心に法人営業や企画部門に従事し、大手製造業向けにIoTやDXの導入を推進。2022年3月に日鉄ソリューションズ株式会社を退社後、プラネット行政書士事務所を開業。
中小企業のお客様へビジネス経験を活かした事業計画の策定や採用定着を支援。(公財)千葉県産業振興センターでの補助金受付業務(嘱託)や補助金事務局での審査の経験がある補助金専門家として活動中。2026年6月に千葉県市川市から静岡県伊東市へ移住。オンラインで全国のお客様を引き続きご支援しつつ、温泉三昧の日々も満喫。



