
「良い事業なのに、なぜ落ちたのか」
補助金の申請を考えている経営者の方から、私はこんな相談をよく受けます。
「自社の取り組みには自信があったのに、不採択だった」、「一生懸命に事業計画書を書いたのに、どこが悪かったのか分からない」。
正直に申し上げれば、採択と不採択を分けているのは、事業そのものの良し悪しではありません。分かれ目は、審査の観点に沿って、審査員に伝わるように書けているかどうかです。どれほど優れた事業でも、ここを外すと点数は伸びず、不採択になります。
はじめに、私の経歴を少しだけ
私は行政書士と中小企業診断士の資格を持ち、補助金申請の支援を専門にしています。もう一つ、この記事の内容に深く関わる経歴があります。かつて補助金の審査員として、100件以上の申請書を実際に審査してきました(守秘義務があるため、補助金の名称や詳しい内容はお伝えできません)。
審査する側と、申請を支援する側。その両方を経験してきたからこそお話しできる、採択の勘所をお伝えします。
採点の基準は、実は最初から公開されている
補助金は、審査員の好みや勘で決まるわけではありません。「審査の観点」という評価基準に沿って、一件ずつ採点されています。
そしてこの審査の観点は、公募要領にはっきりと書かれています。言い換えれば、公募要領は採点のヒントがすべて載っている虎の巻のようなものです。審査員が何を見て点を付けるのかは、申請する前から公開されているのです。
ところが、この公募要領の読み込みが甘い方が驚くほど多い。せっかくのヒントを目の前にしながら、活かしきれていないのです。
審査員として見てきた、「落ちる申請書」の共通点
100件以上を採点してきて感じたのは、点が伸びない申請書にははっきりとした共通点がある、ということです。とくに多いのは次の2つでした。
一つは、答えに漏れがあることです。審査の観点がいくつもあるのに、そのうちの一部にしか答えていないのです。書き手が「自社のここをアピールしたい」という思いに偏るあまり、審査員が本当に知りたいことに答えられていない、というパターンをよく目にしました。
もう一つは、数値計画に無理があることです。売上や利益の見通しに根拠が乏しく、希望的観測に見えてしまうのです。なかでも印象に残っているのが、投資をする時期と売上が伸びる時期を、同じタイミングで描いてしまうケースです。実際には、お金をかけてから効果が表れるまでには、必ずいくらかのタイムラグがあります。このズレを無視した計画は、審査員の目には絵に描いた餅に映ってしまいます。
逆に、「点を入れたくなる」申請書とは
審査する立場から言うと、思わず高い点を付けたくなる申請書にも、やはり共通点があります。
- 審査の観点に対する答えが、具体的で分かりやすい
- どの問いに答えているのかが、読んですぐに伝わる
- 数値に根拠があり、投資と効果のタイムラグまで見込んで計画されている
- 専門用語に頼らず、事業の中身がありありとイメージできる
審査員は、限られた時間のなかで何件もの申請書に目を通します。読み手が答えを探し回らなければならない計画書は、それだけで不利になってしまうのです。
たとえば、小規模事業者持続化補助金の場合
ここでは一例として、小規模事業者持続化補助金の審査の観点を見てみましょう。大きく分けると、次の5つです。
- 経営状況分析の妥当性:自社の強みや弱み、顧客や市場の動きを正しくつかめているか
- 経営方針・目標と今後のプランの適切性:その分析を踏まえた方針や目標が、筋の通ったものになっているか
- 補助事業計画の有効性:補助事業の中身が、課題の解決や売上の拡大に本当につながるか
- 積算の透明・適切性:経費の内訳や金額の根拠が明確で、妥当といえるか
この4つは、いわば審査員から投げかけられる5つの問いです。申請書には、このすべてに漏れなく答えることが求められます。
観点を「問い」に置き換えて、一つずつ答えていく
では、どうすれば採択される事業計画になるのか。私がおすすめしているのは、審査の観点を「問い」として捉え直し、それらに問いに記載されている項目を分解して一つずつ丁寧に答えていくやり方です。
まず、それぞれの観点を「審査員から聞かれている質問」として書き出してみます。そのうえで、一つひとつの問いに対して、自社なりの答えを具体的に用意していきます。このとき大切なのが、答えの根拠です。数値や事実、現場の実態を添えることで、答えに説得力が生まれます。
一通り書けたら、最後に全体を見返してください。4つの観点すべてに答えられているか。投資と効果のタイミングなど、計画の時間軸に無理はないか。この「分解して、一問一答で緻密に組み立てる」ひと手間が、採択率を大きく左右します。
よくある質問
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審査の観点は、どこで確認できますか。
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各補助金の公募要領に記載されています。まずは公募要領を手に入れ、審査に関する部分を最優先で読み込んでください。
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事業が優れていれば、採択されますか。
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残念ながら、それだけでは決まりません。どれほど優れた事業でも、審査の観点に沿って伝わるように書けていなければ、点は伸びないのです。「中身」と「伝え方」は別のものだと考えてください。
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初めての申請でも、採択は狙えますか。
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もちろん狙えます。ただし、公募要領をしっかり読み込み、審査の観点に沿って計画を立てることが前提です。ここを独力でやりきれるかどうかが、一つの分かれ目になります。
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自分ひとりで事業計画書を書くのは、難しいでしょうか。
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審査の観点を分解し、一つずつ具体的に答えていく作業は、慣れていないとどうしても抜け漏れが起きがちです。専門家と第三者の視点で壁打ちをすると、精度がぐっと上がります。
おわりに
補助金の採択は、「良い事業かどうか」だけでは決まりません。審査の観点を踏まえ、審査員に伝わる事業計画を、どれだけ緻密に組み立てられるか。そこにかかっています。
やること自体は、決して複雑ではありません。公募要領を読み込んで審査の観点を洗い出し、それを問いに分解して、一つずつ具体的な答えと根拠を用意していく。数値計画では、投資と効果のタイムラグまで見込んでおく。この積み重ねです。
とはいえ、初めての申請でこれをひとりでやりきるのは、簡単なことではありません。私は審査員としての経験をもとに、審査の観点を分解しながら、一つひとつの問いへの答えを一緒に組み立てていく「壁打ち相手」として、経営者の事業計画づくりに伴走しています。
まずは気軽に、あなたの事業のことを聞かせてください。そこから始めていきましょう。
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1971年山口県下松市生まれ、千葉県市川市在住。25年間、IT業界の東証プライム上場企業を中心に法人営業や企画部門に従事し、大手製造業向けにIoTやDXの導入を推進。2022年3月に日鉄ソリューションズ株式会社を退社後、プラネット行政書士事務所を開業。中小企業のお客様へビジネス経験を活かした実現可能性の高い事業計画の策定や採用定着を支援。
(公財)千葉県産業振興センターで補助金受付業務(嘱託)や補助金事務局の審査経験がある補助金専門家として活動中。






