「よし、この設備投資で補助金を活用しよう!」
新たな事業展開に向けて、補助金の活用を決めた経営者の皆様。建設会社やメーカーから届いた見積書を見て、「この金額の2/3が補助されるなら助かるな」と皮算用していませんか?
ちょっと待ってください。
実は、手元にある見積もりの総額が、そのまま補助金の対象になるとは限らないのです。
今日は、多くの経営者が陥りがちな「補助対象経費と勘定科目(資産計上)」の落とし穴について、具体的な事例を交えてお話しします。これを知らないと、後で「こんなはずじゃなかった」と後悔することになりかねません。
「建物費」の落とし穴:倉庫は対象でも、駐車場は対象外?
例えば、新事業のために新しい倉庫を建設するとします。建設会社から提示された見積書には、以下の項目が含まれていました。
- 倉庫本体工事費
- 電気・配管工事費
- 駐車場のアスファルト舗装工事
- 敷地内の植栽・外構工事
「これら全部ひっくるめて『建物費』で申請しよう」
もしそう考えているなら、要注意です。
多くの設備投資系補助金(新事業進出補助金など)では、建物費の定義を「減価償却資産の耐用年数等に関する省令における『建物』『建物附属設備』に係る経費」と定めています。
これを税務会計の視点で見るとどうなるでしょうか?
- 倉庫本体や電気設備 ➔ 「建物」「建物附属設備」(○ 補助対象)
- 駐車場や外構(植栽やフェンス) ➔ 「構築物」など(× 補助対象外の可能性大)
つまり、見積もり総額から駐車場や外構工事分を差し引いた金額しか補助対象にならないケースが非常に多いのです。「総額で予算を組んでいたのに、実際には補助金が数百万円少なかった…」という事態になりかねません。
「機械装置費」の落とし穴:研修費用はモノじゃない?
次に、高額な製造機械を導入するケースを考えてみましょう。
機械商社からの見積書には、こう書かれています。
- 機械装置本体
- 搬入・据付工事費
- 操作トレーニング・研修費用(3日分)
ここでの落とし穴は、「トレーニング・研修費用」です。
補助金の対象となる「機械装置費」は、原則として資産計上(機械及び装置、工具器具備品など)されるものに限られます。
操作トレーニングや研修費用は、資産(モノ)ではなく、教育訓練費などの「費用」として処理されることが一般的です。そのため、これらは補助対象外として除外しなければならないケースがほとんどです。
「後出しじゃんけん」はできません
「あ、駐車場が対象外なら、その分予算が余るから、別の機械をもう一台追加して上限いっぱいまで使いたいな」
残念ながら、採択され、交付申請の段階になってからこれに気づいても、後の祭りです。
原則として、事業計画(応募時)に含まれていないものを、後から追加することはできません。
当初想定していた補助金額が減額されるだけで、枠を使い切ることができなくなってしまうのです。「それなら最初から、別の機械も計画に入れておけばよかった…」と悔やんでも、時計の針は戻せません。
失敗しないための「確認プロセス」
こうした失敗を防ぐために、申請前に必ずやっていただきたいことが2つあります。
1. 見積書の内訳を公募要領と照らし合わせる
「一式」で判断せず、見積もりの明細行ひとつひとつが、公募要領の「補助対象経費」の定義に当てはまるか確認してください。
2. 顧問税理士に「資産計上の費目」を確認する
これが最も確実です。見積書を顧問税理士さんに見せて、こう聞いてください。
「先生、この見積もりの項目のうち、『建物』『建物附属設備』『機械及び装置』『器具及び備品』『工具』
として資産計上されるのはどこまでですか?」
税務上の判断と補助金のルールをすり合わせることで、正確な補助対象額が見えてきます。
まとめ
補助金は、あくまで「決められたルールの範囲内」で支払われるものです。
「事業に必要だから全部対象だろう」という思い込みは捨てて、「税務上、どの資産科目に振り分けられるか?」という視点を持つことが、補助金を最大限有効活用する鍵となります。
申請書を書き始める前に、ぜひ一度、お手元の見積書を顧問税理士さんと一緒に精査してみてください。そのひと手間が、数百万円の差につながるかもしれません。
