社長、毎日お疲れ様です。

資金繰りに奔走し、社員の生活を守り、そして営業の最前線に立つ。会社の未来を一身に背負う社長の毎日は、本当に厳しい戦いの連続だと思います。

苦労して獲得した契約、そして納品を終え、請求書を発行した時の安堵感。「今月の売上も、これで何とかなった…」そう胸をなでおろす瞬間は、何度経験しても嬉しいものですよね。

しかし、もしその請求書が、ただの紙切れになったとしたら…?

  • 「まさか、あの取引先が…」
  • 「あんなに信頼していたのに…」

残念ながら、ビジネスの世界では「まさか」が起こります。そして、売掛金の回収不能という問題は、問題が起きてからでは打つ手がほとんどありません。 今日は、会社の未来を守るために、社長が「平時」にこそ考えておくべき、転ばぬ先の杖についてお話しします。

売掛金100万円の未回収は、100万円の損失ではない

もし、100万円の売掛金が回収できなくなったら、どうなるでしょうか。

「100万円の売上が消えるだけ」ではありません。会社の利益が吹き飛ぶ、ということです。

例えば、会社の利益率が10%だとします。この100万円の損失を埋めるためには、なんと1,000万円の追加売上が必要になるのです。

たった一つの取引先の倒産が、寝る間も惜しんで積み上げてきた利益を瞬時に消し去り、自社の資金繰りを急激に悪化させます。最悪の場合、自社は黒字なのに支払いができなくなる「黒字倒産」の引き金にもなりかねません。

これは決して大げさな話ではなく、多くの中小企業が直面してきた現実です。

火事が起きてから火災保険には入れない

「何かあってから考えよう」では、手遅れです。

売掛金の回収不能リスク対策は、火災保険と全く同じ。煙が上がってから、炎が見えてからでは、誰も保険に入れてはくれません。

取引先の経営が悪化した後では、

  • 保証会社は「リスクが高すぎる」と契約してくれません。
  • ファクタリング会社も「回収不能な債権」は買い取ってくれません。

だからこそ、取引先との関係が良好で、経営が順調な「今」こそ、対策を検討するベストタイミングなのです。

社長が知っておくべき3つの「お守り」

では、具体的にどんな対策があるのでしょうか? 複雑な話は抜きにして、中小企業が使いやすい代表的な3つの制度を「お守り」としてご紹介します。

1. 取引先に内緒で入れる「売掛金の保険」:売掛金決済保証サービス

取引先の倒産などで売掛金が支払われなかった場合、保証会社が代わりに支払ってくれるサービスです。特定の取引先ごとなど、柔軟に保証をかけられます。

  • こんな社長におすすめ:
    • 特定の取引先への売上依存度が高い
    • 新規の取引に一歩踏み出せないでいる

2. 請求書を現金に変える「資金調達の裏ワザ」:ファクタリング

請求書(売掛債権)を専門の会社に買い取ってもらうことで、支払期日より早く現金化する手法です。貸し倒れリスクもファクタリング会社に移転できます。

  • こんな社長におすすめ:
    • とにかく早く現金が必要
    • 銀行融資以外の資金調達手段を探している
    • ただし、ファクタリングの利用が売掛先の取引先に知られることもケースによっては発生しますので、信頼関係に影響を与えないよう注意が必要です。

3. 国が用意した「連鎖倒産防止のお守り」:経営セーフティ共済

毎月掛金を積み立てておくことで、取引先が倒産した際に、無利子・無担保で融資を受けられる国の制度です。掛金が全額経費(損金)になるため、節税効果も期待できます。

  • こんな社長におすすめ:
    • 万が一の際のセーフティネットを確保したい
    • 節税も同時に考えたい

※ただし、この共済は加入から6ヶ月間は利用できないため、早めの加入が必須です。

対策はコストではなく「未来への投資」

これらの制度を利用するには、もちろん費用がかかります。しかし、それは単なるコストではありません。

万が一の事態で会社が倒産の危機に瀕するリスクを考えれば、これは会社の未来、そして大切な社員の生活を守るための「投資」です。

社長の仕事は、攻めることだけではありません。会社という城を、不測の事態から「守る」ことも、同じくらい重要な責務です。

安心してアクセルを踏み込むために、まずはブレーキやエアバッグが正常に作動するかを確認する。経営もそれと同じです。