「人が足りない!今すぐ誰か来てほしい!」
会社の未来を一身に背負う社長であれば、人手不足の悩みは死活問題です。現場からは悲鳴が上がり、目の前の業務は山積み…。その焦りから、すぐさま求人媒体に電話をし、「とにかく急いで募集をかけてくれ!」と依頼してしまった経験、ありませんか?
その気持ち、痛いほどわかります。しかし、その「焦り」こそが、大切なお金をドブに捨ててしまう「求人広告の罠」への入り口なのかもしれません。
多くの社長が陥る「とりあえず求人」の悲劇
- 「急いで掲載したものの、なんだかピンとくる応募が来ない…」
- 「面接をしてみると、うちが求めているスキルと全然違う…」
このような状況に陥ったとき、多くの中小企業が利用するのが「前課金型(掲載課金型)」の求人広告です。このタイプの広告は、一度契約して掲載が始まると、
- 原則、求人原稿の大幅な変更はできない
- 途中で解約しても、料金は返ってこない
という、後戻りのできない契約がほとんどです。
つまり、掲載を始めてから「あ、求める人物像が違った!」「仕事内容をもっとこう書けばよかった!」と気づいても、もう手遅れなのです。応募は来ず、時間だけが過ぎていく広告枠を眺めながら、「今回の広告費、完全に無駄だったな…」と頭を抱えることになります。これが、焦りから生まれる典型的な失敗パターンです。
なぜ失敗するのか?原因は「社内」にある
なぜ、このようなミスマッチが起きてしまうのでしょうか。
腕の悪い広告代理店を選んだから?求人媒体が悪かったから?
いいえ、根本的な原因は、求人広告を出す「前」の準備不足にあります。
特に、「現場を巻き込んだすり合わせ」を怠ったことが、失敗の最大の要因です。
社長の頭の中にある「欲しい人材」と、実際に新しい仲間と一緒に働く「現場」が求める人材との間には、思った以上に大きなギャップが存在します。
- 社長:「とにかく真面目で、長く働いてくれる若手が欲しい」
- 現場:「いや、そうはいっても最低限のスキルとして、この専門ソフトが使える経験者じゃないと業務が回りません!」
この認識のズレを放置したまま求人原稿を作成すれば、現場が本当に必要としている人材からの応募が来るはずもありません。
採用成功は「広告を出す前」に9割決まる!失敗しないための鉄則
では、どうすればこの悲劇を避けられるのでしょうか。
答えはシンプルです。求人広告の会社に連絡する前に、たった一つ、社内で「採用戦略会議」を開くことです。
大げさに聞こえるかもしれませんが、1時間でも構いません。社長と、配属先の部署の責任者、そして可能であれば現場のキーパーソンを集めて、以下の3点を徹底的に話し合い、言語化してください。
1.【WHY】なぜ、今、人が必要なのか?
- 欠員補充なのか?事業拡大のためか?
- その人が入ることで、チームや会社はどう変わってほしいのか?
- この「なぜ」が、求人原稿の「心」となり、候補者の心に響くメッセージの土台となります。
2.【WHAT】具体的に、どんな仕事をお願いするのか?
- 「営業業務全般」のような曖昧な言葉はNGです。
- 「既存顧客へのルート営業が7割、新規テレアポが3割」「毎日の業務日報作成、週1回の定例ミーティングへの参加」など、一日の仕事の流れがイメージできるレベルまで具体的に洗い出します。
3.【WHO】どんな人に来てほしいのか?
- スキル・経験: 「必須(MUST)」のスキルと、「あれば歓迎(WANT)」のスキルを明確に分けましょう。「簿記2級は必須」「ExcelのVLOOKUPが使えれば尚可」など。
- 人柄・価値観: 「コツコツと正確な作業が得意な方」「変化を楽しみ、新しい提案を歓迎するチームです」など、社風やチームの雰囲気を伝え、どんな人なら馴染めそうかを考えます。
この3つの「WHY」「WHAT」「WHO」を、現場のリアルな声を吸い上げながら固めること。これさえできていれば、求人原稿はブレようがありません。たとえ広告会社の担当者が作った文章でも、「私たちが欲しいのはこういう人です」と明確な指示が出せるため、ミスマッチは劇的に減ります。
急がば回れ。未来の仲間への一番の近道
「人が足りなくて焦っているのに、そんな会議をしている暇はない!」
そう思うかもしれません。しかし、考えてみてください。数十万円の広告費を無駄にし、数ヶ月間も採用活動が停滞するリスクと、たった1時間の社内会議。どちらが本当に「時間とコストの無駄遣い」でしょうか。
採用活動とは、単なる「空席補充」の作業ではありません。会社の未来を共に創る大切な仲間を探す、重要なプロジェクトです。
焦る気持ちをぐっとこらえ、まずは現場の仲間と向き合う。その一歩手間の「すり合わせ」こそが、採用を成功させ、会社の未来を強くする、最も確実で、最も早い近道なのです。
