- 「このままではジリ貧だ…」
- 「何か新しいことを始めなければ、会社がもたない」
- 「起死回生の一手は、新規事業しかない!」
赤字という厳しい現実の中、会社の未来を必死で考え、来る日も来る日も資金繰りに頭を悩ませる社長の皆さん。その焦りと、未来への希望が入り混じった気持ち、痛いほどよく分かります。
新規事業という言葉には、現状を打破してくれる魔法のような響きがあります。しかし、一歩間違えれば、その決断が会社に“とどめを刺す”ことになりかねないとしたら…?
今回は、あなたの会社を救うための、耳の痛い、しかし最も重要な話をします。
赤字企業が陥る「二兎を追う」という最も危険な罠
赤字なのに、新規事業に手を出す。つまり、「既存事業の立て直し」と「新規事業の立ち上げ」を同時に行うこと。
体力のある大企業では「両利きの経営」などともてはやされるこの戦略も、体力の尽きかけた中小零細企業にとっては、共倒れにつながる最も危険な罠です。
なぜなら、会社の命である経営資源、すなわち「人・モノ・金・時間」が致命的に分散してしまうからです。
- 【金】が尽きる: ただでさえ足りない運転資金。それが二つに割かれれば、既存事業の改善は中途半端になり、新規事業も十分な投資ができずに離陸できません。結果、両方の事業がジリ貧になり、キャッシュが底をつくのが早まるだけです。
- 【人】が疲弊する: 社長であるあなたのエネルギーと時間は有限です。意識が分散すれば、経営の精度は鈍ります。現場の社員は「本業の立て直し」と「未知の挑戦」という二重の負担を強いられ、「一体、会社はどっちに進みたいんだ?」と混乱し、やがて疲弊しきってしまいます。
- 【経営】の焦点がボケる: 危機的状況を乗り越えるために最も必要なのは、「今はこれに集中する!」という一点集中のエネルギーです。「あれもこれも」と手を広げた瞬間、組織の一体感は失われ、沈没へのカウントダウンが始まります。
厳しい現実ですが、赤字の会社に「二兎を追う」体力はないのです。
では、どうすれば? 原則は「一兎に集中」すること
赤字の会社が取るべき道は、原則として次の2つしかありません。
- 【選択A】既存事業の黒字化に「全集中」する
- まずは本業の立て直しが経営の王道です。コスト削減、販路開拓、商品改善… やれることはまだあるはず。会社の持てる全リソースを、本業の黒字化という「一兎」に集中投下します。
- 【選択B】既存事業に見切りをつけ、新規事業に「移住」する
- もし、あなたの事業が市場そのものの縮小(構造不況)など、もはや個社の努力ではどうにもならない状況なら、話は別です。その場合は、既存事業という名の沈みゆく船から脱出し、新しい大陸(新規事業)へ「移住」する覚悟が必要です。これは事業の「追加」ではなく「転換(ピボット)」であり、「退路を断つ」決意が求められます。
どちらの道を選ぶにせよ、鍵は「集中」です。
唯一の例外、それは「シナジー」という名の細く険しい道
「原則は分かった。でも、どうしても…」
そう考える社長さんのために、例外中の例外についてお話しします。「二兎を追う」戦略が機能する、本当に稀なケース。それは、あなたの始めようとしている新規事業が、既存事業の赤字要因を直接的に解消する、強い「シナジー(相乗効果)」を持つ場合のみです。
あなたの新規事業は、「1 + 1 = 3」になる設計ですか?
- 例えば、顧客離れで赤字の印刷会社が、「Webサイト制作」を始めるケース。
- これは単なる多角化ではありません。既存顧客に「印刷物とWebの連動」を提案して顧客単価を上げ、流出を防ぐ。新規のWeb顧客に印刷物を売る。これは新規事業が、既存事業の延命・改善に直結しています。
- 例えば、原材料費の高騰で赤字の飲食店が、「セントラルキッチン」を始めるケース。
- これも、自店舗の食材を集中調理することでコストを劇的に下げ、さらに余剰生産分を他店に卸して新たな収益源にする。新規事業が、既存事業の赤字要因を直接叩き、かつ新たな収益を生む設計です。
もし、あなたの新規事業がこのような明確なシナジーを持たないのなら、それは残念ながら、ただのリソースの無駄遣いでしかありません。
最後に
社長、あなたのその熱意と行動力は、何物にも代えがたい尊いものです。だからこそ、その大切なエネルギーを、最も成功確率の高い場所に注いでほしいのです。
新規事業という言葉の響きに、魔法のような期待を抱いてはいけません。
冷静に、自社の体力を見極めてください。そして、自問してください。
「今、我が社が全集中で狩るべき『一兎』は、何か?」と。
その答えの中にしか、会社の未来はありません。あなたの冷静な判断が、会社を救うと信じています。
