「生成AIがすごいらしい」「ChatGPTが話題だ」――そんな声を聞き、自社でも試している方は多いのではないでしょうか。メールの返信案を作らせたり、会議の議事録を要約させたり…確かに、日々の業務が少し楽になるのを実感されているかもしれません。
しかし、もしAIの活用がそこで止まっているとしたら、非常にもったいない。それは、時速300kmで走れる新幹線のチケットを持ちながら、駅の待合室で涼んでいるだけのようなものです。
今回は、「作業の時間短縮」という守りの活用から一歩踏み出し、会社の売上や競争力に直結する「付加価値」を生み出す攻めのAI活用について、ある経営コンサルタントの実践例を交えながら、具体的にお話しします。
「効率化の罠」に陥っていませんか?
AIを導入する際、私たちはつい「今ある業務をいかに楽にするか」という視点で考えがちです。人手不足に悩む中小企業にとって、業務効率化が魅力的に映るのは当然のこと。
しかし、AIの真の力は、単なるアシスタント業務の代行ではありません。人間一人の経験や知識だけでは到達し得ない、新たな視点やアイデアをもたらし、ビジネスそのものを進化させることにあります。
思考を転換しましょう。AIを「便利なアシスタント」から、「優秀な戦略パートナー」として捉え直すのです。
「この作業をやっておいて」と指示するのではなく、「私たちの会社が次に打つべき手は何か、一緒に考えよう」と問いかける。この視点の転換こそが、付加価値創出の第一歩です。
【実践例】ある経営コンサルタントの「仕組み化」されたAI活用法
先日、ある経営コンサルタントの方から、非常に示唆に富むAIの活用事例を伺いました。これこそが「戦略パートナー」としてのAI活用の見本です。
業務: お客さま(相談企業)との経営相談に向けた準備
利用ツール: Geminiと連携させたスプレッドシート
【ステップ1:情報入力】
まず、スプレッドシートにお客さまの「①業種」「②商品・サービス」「③補足情報」といった基本情報を入力します。
【ステップ2:AIによる課題の洗い出し】
所定の欄にチェックを入れると、AIが稼働。入力された情報に基づき、その企業が抱えていそうな「主要な経営課題(仮説)」を10個ほど自動で列挙します。
【ステップ3:人間の判断】
コンサルタントは、列挙された課題の中から、これまでの経験やヒアリング内容と照らし合わせ「特にお客さまが気にしていそうだ」「ここが議論の核心になりそうだ」という項目を数個選び、チェックを入れます。
【ステップ4:AIによる対策案の提示】
再度AIが稼働。ステップ3で人間が選んだ課題に対して、今度は具体的な「対策案」を複数列挙します。
【ステップ5:面談と計画策定】
コンサルタントは、AIが提示した網羅的な課題と対策案を「思考の土台」として、お客さまとの面談に臨みます。これにより、より多角的で深い議論が可能になり、具体的なアクションプランへと繋げていくのです。
では、参考までに一連の業務を動画でご確認ください。
この事例の「本当の価値」はどこにあるか?
この話を聞いて、あなたはどう感じましたか?「準備が早くなって楽だな」だけではないはずです。この仕組みの本当の価値は、以下の3点に集約されます。
- 視野狭窄からの脱却: コンサルタント自身の経験や思い込みだけに頼らず、AIが客観的に提示する多様な視点を得ることで、自分一人では気づけなかった課題や解決策の「ヌケ・モレ」を防ぎます。
- 人間とAIの理想的な協働: AIに「発散(選択肢を広げる)」を任せ、人間が「収束(本質を見極め、決定する)」に集中する。それぞれの得意分野を活かした、まさに最強のパートナーシップです。
- 提案の質の向上: 最終的に顧客に提供するのは、単に効率化されたレポートではありません。AIとの壁打ちによって思考が深められた、質の高いコンサルティングそのものです。これこそが「付加価値」です。
さあ、あなたの会社ではどう活かしますか?
このコラムを読んでいる経営者の皆様、ぜひ自社に置き換えて考えてみてください。
AIは、あなたの仕事を奪うものではありません。あなたの思考を拡張し、会社の未来を共に創るパートナーです。さあ、待合室から一歩踏み出し、AIという新幹線で、新しい景色を見に行きませんか。
