社長、毎日お疲れ様です。資金繰り、人材育成、そして現場の指揮。中小企業の社長は、まさに会社の全てを背負うスーパーマンです。長年の経験と勘を頼りに、厳しい競争を勝ち抜いてこられたことでしょう。「この製品は大体これくらいで売れば儲かる」その感覚は、これまで会社を支えてきた羅針盤だったはずです。

しかし、もしその羅針盤が少しずつズレていたら、どうなるでしょうか?

原材料の価格は毎月のように変動し、燃料費や電気代も高騰の一途をたどっています。昔と同じ価格設定のままでは、知らないうちに利益を削り、最悪の場合「売れば売るほど赤字」という状況に陥っているかもしれません。

「うちは大丈夫だよ」と思われた社長にこそ、今回お伝えしたいのが「原価計算」という、会社を未来へ導くもう一つの羅針盤です。

専門家は不要!「原価計算」って、要するに何?

「原価計算」と聞くと、「経理の専門家がやる難しい計算」「うちみたいな小さな会社には関係ない」と思われるかもしれません。

全くそんなことはありません。

原価計算とは、一言でいえば「その製品(やサービス)を1つ作るのに、本当はいくらかかっているのか?」を明らかにすることです。

例えば、あなたがパン屋の社長だとします。

  • パン1個の値段を決める時:小麦粉やバターなどの材料費だけでなく、パンを焼くオーブンの電気代、パン職人の人件費、お店の家賃まで考えて値付けできていますか?
  • AパンとBパン、どちらにもっと力を入れるべきか:Aパンはよく売れるけど、実は手間がかかって利益はわずか。一方、Bパンはそれほど売れないけれど、1個あたりの利益は大きい。この事実を知っていますか?

原価計算は、こうした「経営の勘どころ」を、数字という誰が見てもわかる客観的な事実で示してくれるツールなのです。

原価計算がもたらす「3つの強力な武器」

どんぶり勘定から脱却し、原価計算を導入すると、社長の経営判断に3つの強力な武器がもたらされます。

武器1:赤字製品をなくし、儲かる製品を伸ばせる【利益改善】

原価を正確に把握することで、「どの製品が我が社の利益を支えているのか」「どの製品が利益を圧迫しているのか」が一目瞭然になります。

  • 対策:不採算製品の値上げ交渉、生産プロセスの見直し、あるいは思い切って撤退するという判断ができます。逆に、利益率の高い製品の販売に注力すれば、会社全体の利益は大きく改善します。

武器2:「あといくらまでなら下げられますか?」に即答できる【交渉力アップ】

取引先からの厳しい値下げ要求。これは社長にとって胃の痛い問題です。しかし、正確な原価がわかっていれば話は別です。

  • 自信のある交渉:「この価格が、品質を維持できる限界です」と、明確な根拠を持って交渉に臨めます。どこまでが譲歩できるラインか、どこからが赤字になるのかを把握しているため、不利な条件を飲まされることがなくなります。

武器3:勘や度胸に「データ」という裏付けが加わる【的確な経営判断】

「新しい機械を導入すべきか?」「この大口案件、受けるべきか?」といった重要な経営判断。これまでは社長の経験と勘が全てだったかもしれません。

  • 根拠のある意思決定:原価データがあれば、「この機械を導入すれば、製品1個あたりの製造コストが〇円下がるから、〇年で投資を回収できる」といった具体的なシミュレーションが可能になります。勘だけに頼らない、確実性の高い未来への投資判断ができるようになるのです。

「わかってはいるけど、時間も人もいない…」そんな社長へ

「原価計算の重要性はわかった。でも、うちには経理の専門家もいないし、日々の業務で手一杯だ」という声が聞こえてきそうです。

ご安心ください。最初から完璧な原価計算を目指す必要はありません。

まずは一番の主力製品だけでも構いません。あるいは、材料費や外注費といった分かりやすい費用(直接費)だけを計算してみることから始めてみましょう。今お使いのExcelで十分です。

大切なのは、「本当のコストはいくらなのか?」という意識を持つ第一歩を踏み出すことです。


社長、会社の未来は、今日の小さな一歩にかかっています。

経験と勘という素晴らしい羅針盤に、「原価計算」という正確な海図を加えてみませんか?

それは、荒波の時代を乗り越え、会社を10年、20年先へと導く、最も確実な航海術になるはずです。