「社員にはもっと成長してほしい。そのために外部の研修も考えている。しかし、下手に知識をつけさせて視野が広がると、『うちの会社じゃなくても…』と、転職のきっかけになってしまうのではないか…?」

中小零細企業の社長様であれば、一度は必ずこのジレンマに頭を悩ませたことがあるのではないでしょうか。

手塩にかけて育てた社員に去られるのは、金銭的な損失以上に、心が折れるものです。そのリスクを考えれば、「下手に刺激しない方がいい」「育成は社内でできる範囲で十分だ」という結論に至るお気持ちは、痛いほどよく分かります。

しかし、その「現状維持」という判断が、変化の激しいこの時代において、会社全体の成長を止め、ゆっくりと衰退に向かわせる”最大のリスク”だとしたら、どうでしょうか。

本日は、この深刻な「育成のジレンマ」を乗り越え、社員の成長を会社の成長に直結させるための、極めて現実的なステップについてお話しします。

【結論】最優先は「外部」ではない。「足元」にある

いきなり結論から申し上げます。

社員の能力向上を考える時、真っ先にやるべきは「外部の研修パートナーを探すこと」ではありません。

最優先で取り組むべきは、「社内の育成の仕組み」を盤石にすること。

つまり、社長や上司が、日々の業務を通じて部下を直接指導し、育て、改善を促す文化を確立することです。

これが人材育成の「土台」であり、すべての基本となります。

なぜ「社内教育」が最強なのか

この「OJT(On-the-Job Training)」こそが、最強の人材育成メソッドである理由は明確です。

  • 圧倒的な実用性: 業務に100%直結した、本当に必要なスキルだけを無駄なく学べます。
  • コスト効率: 外部に支払う研修費用はかかりません。
  • 信頼関係の醸成: 「教える・教えられる」という密なコミュニケーションは、上司と部下の間に強固な信頼関係を築きます。
  • 文化と理念の継承: 会社の理念や仕事の進め方といった、マニュアル化できない「暗黙知」が、人から人へと自然に受け継がれていきます。

どんなに素晴らしい外部研修も、この「土台」がグラついていては、その効果は半減してしまいます。まずは、自社の足元を固めることに全力を注ぐべきです。

「社内だけ」で満足した時、会社の成長は止まる

さて、ここで多くの社長が次の壁にぶつかります。

「よし、社内教育は徹底している。ならば、もう外部研修は不要だな」と。

それは、半分正解で、半分は危険な落とし穴です。

盤石な社内教育は、時として「組織の硬直化」や「マンネリ」という副作用を生むからです。

  • 「うちのやり方が一番だ」
  • 「昔からこれでやってきたから大丈夫」

この「社内の常識」が、気づかぬうちに「世間の非常識」になっていませんか?

ここで初めて、「外部研修」がその真価を発揮します。

外部研修は、「社内教育の代わり」ではありません。盤石な社内教育を、さらに加速させるための「起爆剤」なのです。

外部研修が”起爆剤”になる3つの瞬間

戦略的に外部研修を活用すべきは、以下のような「社内だけでは解決できない課題」に直面した時です。

  1. 社内にない知識を”輸入”したい時
    • DX、AI活用、最新のWebマーケティング、複雑な法改正への対応…。これらは、社内の誰も経験したことのない新しい知識です。こうした専門分野は、外部のプロから効率的に学ぶのが最も早く、確実です。
  2. 組織のマンネリを打破し、”血の入れ替え”をしたい時
    • 外部の常識や他社の成功事例は、「そんなやり方があったのか!」という良い衝撃を社内に与えます。凝り固まった常識に風穴を開け、業務改善のメスを入れるきっかけを作るのです。「井の中の蛙」からの脱却です。
  3. 教える側である”上司”に刺激を与えたい時
    • 部下が外部で新しい知識を学んで帰ってくると、上司は「自分も学ばないと追い抜かれる」という健全なプレッシャーを感じます。これが上司自身の成長を促し、組織全体のレベルアップに繋がります。

最後の関門:研修を「投資」に変えるパートナー選び

では、いざ外部研修を使おう、となった時。

絶対にやってはいけないのが「丸投げ」です。

失敗する研修は、決まって「良さそうだ」とパンフレットを見て、業者に丸投げした研修です。これでは単なる「コスト」で終わってしまいます。

研修を未来への「投資」に変える鍵は、自社の課題に合わせて研修内容を一緒に作り上げてくれる「親身なパートナー」を見つけることです。それは「業者選び」というより、「外部の経営・人事参謀探し」に近い活動です。

良いパートナーかどうかは、以下の点で見極めてください。

  • 深いヒアリングか?:「どんな研修がいいですか?」ではなく、「会社の課題は何ですか?」と、背景やゴールまで深く聞いてくれますか?
  • 具体的な提案か?:ありもののプランではなく、「貴社のその課題なら、このケーススタディを使いましょう」と、自社のためだけのプログラムを提案してくれますか?
  • 講師は現場を知っているか?:机上の空論ではなく、中小企業のリアルな実務経験に基づいた「生きた言葉」で語ってくれますか?
  • 「やって終わり」ではないか?:研修後のフォローアップなど、「学びをいかに定着させるか」まで一緒に考えてくれますか?

最後に

「社員の成長」と「離職のリスク」は、いつでも隣り合わせです。そのジレンマは、社長である限り、永遠に付きまとうものかもしれません。

しかし、リスクを恐れて「学ばせない」という選択は、社員の成長意欲を削ぎ、会社全体の活力を奪い、変化の激しい市場から静かに退場していく道を選んでいるのと同じです。

「社員が辞めてしまうかもしれない」という健全な緊張感こそが、社長自身に「もっと魅力的な会社にしよう」と努力させる原動力になります。その努力の先にしか、会社の未来はありません。

まずは、足元である社内教育を盤石にする。

そして、明確な目的を持って、最高のパートナーと共に外部の知恵を戦略的に活用する。

このステップこそが、「育成のジレンマ」を乗り越え、社員と会社が共に成長していくための、最も現実的で、力強い一手なのです。