社長、毎月の資金繰り、本当に頭の痛い問題ですよね。月末が近づくたびに、通帳の残高と支払いリストを眺めながら、眠れない夜を過ごしているかもしれません。
資金繰りが厳しくなると、つい焦ってしまい、「お願いしやすいところから電話をかけてみる」「金利の低いところを探して駆け込む」といった場当たり的な対応をしてしまいがちです。
しかし、パニックは最大の敵。資金繰り対策には、ダメージを最小限に抑え、効果を最大化するための「正しい順番」が存在します。
今回は、いざという時に社長が冷静に、そして的確に行動するための「鉄則」ともいえる6つのステップをご紹介します。なお、大前提として資金繰り表を作成して、資金の流れを把握することが先決です。
資金繰り対策、この順番が鉄則です
基本戦略は「①内部で完結 → ②外部(支払い先)と交渉 → ③外部(入金元)と交渉 → ④資産の活用」の流れです。関係者への影響が少ない順に進めるのがポイントです。
ステップ1:まずは聖域なき「経費削減」から
真っ先に、そして必ず着手すべきなのが、自社でコントロールできる経費の削減です。これは外部に一切迷惑をかけず、すぐに始められる最も健全な対策です。
- なぜ最初か?: 外部との交渉や新たな借入の前に、まずは「自社でやるべきことをすべてやった」という姿勢が重要です。これは後の金融機関や取引先との交渉でも、有利に働くことがあります。
- チェック項目: 不要な会食や出張、過剰な広告宣伝費、節約できる水道光熱費や通信費など、「聖域」を設けずに、すべての経費を見直しましょう。
ステップ2:手形ジャンプの依頼
支払手形を振り出している場合、支払期日を延長してもらう「手形ジャンプ」の交渉です。
- なぜこの順位か?: 支払いを先延ばしにする交渉の第一歩ですが、特定の取引先との個別の交渉であり、影響範囲を限定できます。
- 注意点: 手形の不渡りは会社の信用を失墜させる致命的な事態に繋がります。ジャンプの依頼は、その手形が不渡りになることを避けるための最終手段に近い交渉です。安易に繰り返すと信用を失うため、誠心誠意、事情を説明し、確実な支払い計画を示す必要があります。
ステップ3:税金・社会保険料の分納相談
「役所への支払いは待ってもらえない」と思いがちですが、実は税務署や年金事務所には、納税や保険料納付を猶予・分納する制度が用意されています。
- なぜこの順位か?: 民間の取引先より、公的機関の方が相談窓口や制度が整っており、事情を汲んでくれるケースが多いためです。延滞税はかかりますが、資金ショートよりは遥かに良い選択です。
- 行動: 必ず窓口に出向き、直接相談してください。電話一本で済ませようとせず、真摯な姿勢で分納計画を提示することが重要です。
ステップ4:買掛金の支払い延長の依頼
手形取引以外の、通常の掛取引の支払い延長を依頼します。
- なぜ手形ジャンプの後か?: 手形ジャンプに比べ、より多くの取引先が対象になる可能性があります。主要な仕入先との関係を損なうリスクがあるため、慎重に行う必要があります。
- 交渉のコツ:
- 正直に状況を話す(嘘やごまかしは厳禁です)。
- 「いつまでに、いくら支払えるのか」という具体的な計画を示す。
- 今後の取引を継続したいという意思を明確に伝える。
信頼関係を損なわないためにも、支払いが遅れそうだと分かった時点で、できるだけ早く相談することが鉄則です。
ステップ5:売掛金の回収を早めてもらう依頼
支払いを遅らせる対策の次は、入金を「早めてもらう」交渉です。
- なぜ後回しか?: 自社の都合で相手(お客様)の資金繰りに影響を与えてしまうため、交渉の難易度は一般的に高くなります。お願いする順番を間違えると、大切な顧客との関係を損なうことにもなりかねません。
- 交渉のコツ: 「期日より早くお支払いいただければ、〇%割引します」といった形で、相手にもメリットを提示すると、交渉がスムーズに進むことがあります。
ステップ6:生命保険の「契約者貸付」を利用する
ここまでの対策を打ってもなお資金が足りない場合、次に検討するのが「資産の活用」です。その中でも、経営者保険など解約返戻金のある生命保険に加入していれば、「契約者貸付制度」が使えます。
- メリット:
- 早い: 申し込みから着金までがスピーディーです。
- 交渉不要: 保険会社との事務手続きだけで、誰にも知られずに資金を調達できます。
- 信用情報に影響しない: 借入ではないため、信用情報に記録が残りません。
緊急時のつなぎ資金として、非常に有効な手段です。
最後に:社長、一人で抱え込まないでください
資金繰りの悩みは、会社の根幹に関わるだけに、誰にも相談できず、社長が一人で抱え込んでしまいがちです。しかし、孤独な判断は視野を狭め、選択を誤る原因になります。
最も重要なのは、早めに動き出すこと、そして一人で悩まないことです。
日頃から相談している税理士さんや、地元の商工会・商工会議所、信頼できるメインバンクの担当者は、社長の会社の状況を理解してくれる一番の味方です。苦しい時こそ、こうした専門家の知恵を借りてください。メインバンクからの運転資金の融資や借入金の返済のリスケができれば、その間に体制を立て直すことも可能です。
ピンチは、会社の財務体質を見直し、筋肉質な経営へと転換するチャンスでもあります。この嵐を乗り越え、より強い会社を創り上げていきましょう。
