会社の未来を考え、経営改善を決意された社長。その熱意と決断に、まず心から敬意を表します。
さて、その大切な「経営改善」、誰にご相談されていますか?
多くの方が、日頃からお付き合いのある顧問税理士の先生や、融資でお世話になっている金融機関の元銀行員の方を思い浮かべるのではないでしょうか。
- 「お金のことは、やっぱり専門家に」
- 「うちの会社の数字を一番よく分かってくれているから」
そのお気持ち、痛いほど分かります。しかし、その「いつもの安心感」が、かえって会社の成長を妨げ、社長の貴重な時間を奪う“罠”になっているとしたら…?
彼らは財務会計のプロとして素晴らしい専門家です。ですが、「経営改善」という航海のすべてを任せるには、あまりにも危険な落とし穴があるのです。今回は、あえて厳しい現実をお伝えします。
罠1:「過去」を語るプロに、「未来」の売上は作れない
経営改善とは、会社の「未来」をより良くするための活動です。しかし、ご相談相手の専門性を冷静に見てみましょう。
- 税理士の専門性:「過去の経営活動を、正しく記録・計算し、申告する」ことです。これは完璧な“過去会計”の世界。税務のプロですが、明日どうやって売上を上げ、市場を切り拓くかという“事業戦略やマーケティング”のプロではありません。
- 元銀行員の専門性:「貸したお金が、安全に返ってくるか」を判断することです。これは企業の“返済能力・リスク”を測る視点。どうしても発想がディフェンシブ(守備的)になりがちです。社長が「ここで勝負をかける!」とアクセルを踏みたい場面で、リスクを過剰に恐れ、ブレーキをかけてしまう可能性があります。
彼らは、バックミラーを見て運転の仕方をアドバイスする超一流の教官です。しかし、社長が本当に知りたいのは、フロントガラスの先に広がる未来への、最適なルートとアクセルの踏み方ではないでしょうか。
罠2:視野が「カネ」に偏り、会社の“現場”が見えなくなる
「社長、このままでは資金繰りが…」「もっとコストを削減しないと…」
財務の専門家からのアドバイスは、当然ながら「カネ」に偏ります。しかし、その財務諸表という“結果”を生み出している源泉は、いったい何でしょう?
そう、現場で働く「人」であり、生み出される「商品・サービス」です。
例えば、「この商品の利益率が低い」という課題があったとします。
財務の専門家は「原価が高いですね」「売価を上げましょう」と数字の上で指摘するでしょう。しかし、本当の原因は、
- 「製造ラインの段取りが悪く、無駄な時間が発生している」(生産の問題)
- 「営業担当が、顧客の言いなりに安易な値引きをしている」(営業の問題)
- 「そもそも商品が、顧客のニーズからズレ始めている」(マーケティングの問題)
といった、生々しい“現場の問題”に隠されていることがほとんどです。
財務の視点だけでは、この現場の課題にメスを入れることはできません。結果として、実現不可能な「コストカット目標」だけが現場に丸投げされ、社員の士気は下がり、会社の空気は淀んでいく…本末転倒とは、まさにこのことです。
罠3:「先生」という力関係が、社長の“主体性”を奪っていく
これが、最も根深く、そして最も危険な罠です。
長年お世話になっている税理士の「先生」や、融資の生殺与奪を握る「銀行さん」。こうした関係性の中では、どうしても社長は「教えを乞う」立場になりがちです。
- 「先生がおっしゃるなら、その通りに…」
- 「銀行さんの顔を立てないと、次の融資が…」
いつの間にか、社長自身が「自分の会社をどうしたいのか」という情熱やビジョンを語る前に、専門家の“べき論”や“常識”に思考を乗っ取られてしまうのです。
経営の最終意思決定者は、他の誰でもない社長、あなた自身です。コンサルタントは、社長が力強く決断するための伴走者であり、壁打ち相手でなければなりません。この力関係が逆転し、社長が「指示待ち」になった瞬間、その会社はもはや社長のものではなくなってしまいます。
では、どうすればいいのか?
ここまで厳しいことを申し上げましたが、絶望する必要はありません。要は「適材適所」です。
- 自社の課題を切り分ける
- まずは、課題が「守り(資金繰り改善、財務リストラ)」なのか、「攻め(売上拡大、新事業開発、組織改革)」なのかを見極めてください。「守り」の課題であれば、税理士や元銀行員は心強いパートナーです。
- “攻め”と“現場”に強い専門家を選ぶ
- しかし、課題が「攻め」や、「ビジネスモデル全体の見直し」といった根本的なものであれば、話は別です。
- 財務はもちろん、事業戦略、マーケティング、生産、人事といった幅広い知見を持ち、経営と現場をつなぐことができる中小企業診断士のような専門家こそ、社長の「参謀」として機能します。彼らは、社長と同じ目線で未来を描き、現場に寄り添いながら、具体的な打ち手を共に考えます。
- 社長自身が「使う」意識を持つ
- 最も重要なのは、専門家を「先生」と崇めるのではなく、自社の経営のために「使う」という主体的な意識を持つことです。複数の専門家の意見を聞く「セカンドオピニオン」も極めて有効です。
顧問税理士や元銀行員は、あなたの会社にとって重要なパートナーです。しかし、彼らは経営改善という航海のすべてを任せられる「船長」ではありません。
社長という船長が、羅針盤(適切なコンサルタント)を賢く使いこなし、会社の未来という目的地を力強く指し示す。
その覚悟ができたとき、会社の歯車は再び力強く回り始めるはずです。
社長、あなたの大切な会社、その未来を、本当に託せる相手は誰ですか?
※今回は少し我田引水な面がありますが、ご了承ください。
