中小企業の社長の皆様、日々の経営、本当にお疲れ様です。数々の取引先との間で交わされる「取引契約書や売買契約書」。忙しい業務の中で、つい雛形をそのまま使ったり、相手方から提示されたものにサインしたりしていませんか?
契約期間を定めることは当たり前ですが、もしその契約書に「契約期間の途中で解約できる条項(中途解約条項)」がなかったとしたら…? それは、あなたの会社を予期せぬ大きなリスクに晒す「時限爆弾」を抱えているのと同じかもしれません。
今回は、多くの中小企業が見落としがちな「中途解約条項」の重要性と、自社を守るために盛り込むべきポイントについて、分かりやすく解説します。
「解約条項がない」契約が、いかに恐ろしいか
「お互い合意の上で始めた契約なのだから、期間満了まで続けるのが当たり前だろう」そう考えるのは、ごく自然なことです。しかし、ビジネスの世界は常に変化に晒されています。
例えば、こんなケースを想像してみてください。
- ケース1:期待外れのコンサルティング契約
- 鳴り物入りで契約したコンサルタント。しかし、成果が全く上がらず、報告も曖昧。このまま高い費用を払い続けるのは無駄だと感じているが、契約書に中途解約の定めがない…。(私ではない)
- ケース2:取引先の品質が急に悪化
- 長年付き合いのある部品メーカー。しかし、最近になって納品遅れや品質不良が頻発。改善を要求しても「善処します」ばかりで、一向に改善されない。自社の製品の品質にも影響が出始めているが、契約期間がまだ1年以上残っている…。
- ケース3:自社の経営方針の転換
- 市場の変化に対応するため、ある事業から撤退し、新しい分野に注力することを決断。しかし、撤退する事業に関連する長期の仕入れ契約や業務委託契約が、解約できずに重荷となっている…。
- ケース4:取引先が「ヤバい会社」だったと判明
- 契約後に、取引先が反社会的勢力と関係がある、あるいは悪質なビジネスを行っている「ヤバい会社」だということが判明。コンプライアンス上、取引を続けることは自社の信用問題に関わる。しかし、契約書には中途解約の条項がなく、関係を断ち切ることができない…。
これらのケースで、もし契約書に中途解約条項がなければ、原則として契約期間が満了するまで、一方的に契約を終えることはできません。
中途解約条項がないことによる4大リスク
中途解約条項がない契約には、具体的にどのようなリスクが潜んでいるのでしょうか。
リスク1:相手方の合意がなければ、未来永劫解約できない
民法の大原則として「契約は守られなければならない」というものがあります。一度結んだ契約は、当事者双方を拘束します。つまり、中途解約の定めがなければ、相手方が「いいですよ」と合意してくれない限り、契約を解除することはできないのです。
たとえ相手方のパフォーマンスが悪くても、「契約ですから」の一言で、不本意な取引を続けざるを得ない状況に追い込まれます。
リスク2:多額の損害賠償を請求される可能性
どうしても契約を解除したい場合、「残りの契約期間分の利益」や「契約解除によって相手方が被る損害」の賠償を求められる可能性があります。これは、本来であれば支払う必要のなかったはずの、大きな損失です。足元を見られ、高額な和解金を支払ってようやく解約できる、というケースも少なくありません。
リスク3:経営の柔軟性が失われ、成長の足かせに
ビジネス環境の変化が激しい現代において、経営の柔軟性は企業の生命線です。より良い条件の取引先が見つかったとしても、現在の契約に縛られていては、コスト削減やサービス向上のチャンスを逃してしまいます。変化を恐れて旧態依然とした契約を続けることは、会社の成長を鈍化させる大きな足かせとなり得るのです。
リスク4:自社のレピュテーション(評判)が毀損する
特に深刻なのが、取引先が反社会的勢力や問題のある企業だった場合です。そのような企業と取引を続けていることが世間に知られれば、「コンプライアンス意識の低い会社」というレッテルを貼られ、社会的信用は失墜します。金融機関からの融資が止められたり、他の優良な取引先から取引を打ち切られたりするなど、事業の存続そのものを揺るがす「風評被害」に繋がりかねません。中途解約条項がなければ、この最悪の事態から抜け出すことすら困難になるのです。
会社を守る!盛り込むべき「中途解約条項」のポイント
では、具体的にどのような条項を盛り込むべきなのでしょうか。大きく分けて2つのパターンがあります。
パターン1:「いつでも」解約できる条項(任意解約)
これは、特別な理由がなくても、一定の予告期間を設けることで、どちらからでも契約を解除できるというものです。経営の自由度を確保する上で、非常に有効です。
【条項例】
「甲および乙は、相手方に対し、3ヶ月前までに書面で通知することにより、本契約を将来に向かって解除することができる。」
- ポイント:予告期間(例では3ヶ月)を設けることで、相手方も急な契約終了に備えることができます。自社のビジネスサイクルや、相手方への影響を考慮して、適切な期間を設定することが重要です。
パターン2:「特定の理由」があった場合に解約できる条項
これは、相手方に契約違反などの特定の事由が発生した場合に、即時に、または催告した上で契約を解除できることを定めたものです。自社に非がない場合に、不利益な契約から速やかに離脱するために不可欠です。反社会的勢力との関係が判明した場合に備え、「反社条項(暴力団排除条項)」を盛り込むことは今や常識です。
【条項例】
「甲または乙は、相手方に次の各号の一に該当する事由が生じた場合、何らの催告を要することなく、直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。
(1) 本契約の条項に違反し、相当の期間を定めて是正を催告したにもかかわらず、当該期間内に是正がなされないとき。
(2) 支払いの停止があったとき、または破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始もしくは特別清算開始の申立てがあったとき。
(3) 差押え、仮差押え、仮処分、強制執行または競売の申立てがあったとき。
(4) 相手方が、暴力団、暴力団員、その他これらに準ずる者(以下「反社会的勢力」という。)であることが判明したとき、または反社会的勢力と関係を有することが判明したとき。
(5) その他、本契約を継続し難い重大な事由が生じたとき。」
- ポイント:どのような場合に解除できるのかを、具体的に列挙することが重要です。自社の取引内容に合わせて、想定されるリスクを洗い出し、条項に盛り込みましょう。
まとめ:契約書は、未来の会社を守る「盾」である
日々の業務に追われる中で、契約書の細かな文言まで確認するのは手間だと感じるかもしれません。しかし、契約書は、取引が順調なときのためではなく、何か問題が起こったときのためにこそ存在するのです。
中途解約条項は、予期せぬ事態から会社を守り、経営の自由度を確保するための、いわば「保険」であり「盾」です。
今すぐ、現在進行中の契約書、そして自社で使っている契約書の雛形を確認してみてください。もし、中途解約条項がなければ、次の契約からは必ず盛り込むようにしましょう。必要であれば、弁護士などの専門家に相談することも、未来への賢明な投資です。
社長自身が契約リスクへのアンテナを高く張り、盤石な経営基盤を築いていくことこそが、変化の激しい時代を勝ち抜くための第一歩となるはずです。
