中小企業の経営者の皆様、毎日お疲れ様です。目の前の売上を追い、資金繰りに奔走し、従業員の生活を守る…その中で、自社の製品一つひとつの「本当の儲け」を正確に把握できていますか?
- 「一番売れている商品だから、会社を支えてくれているはずだ」
- 「売上は上がっているのだから、利益も出ているだろう」
そう思っていても、実は売れば売るほど会社の体力を奪っている「赤字商品」が存在するかもしれません。今回は、どんぶり勘定から脱却し、的確な経営判断の羅針盤となる「限界利益」について、その重要性と具体的な計算手順をご紹介します。
※参考情報:北島大輔 (著) これ1冊でわかる!相手が納得する!中小企業の「値上げ」入門
なぜ「限界利益」が重要なのか?
下の図を見てください。AとB、2つの事業はどちらも同じ「赤字額」です。しかし、その中身は全く異なります。

- Aのケース: 売値が変動費を上回っており、「限界利益」がプラスになっています 。これは、商品が売れることで、家賃や人件費などの固定費の一部を賄えている状態です。
- Bのケース: 売値が変動費を下回っており、「限界利益」がマイナスです 。これは、商品を1つ売るたびに損失が膨らんでいく危険な状態を意味します。
つまり、限界利益とは「売上高 - 変動費」で計算される、事業の貢献度を示す利益のことです。これがマイナスの商品は、値上げやコスト削減など、早急な対策が必要な最優先課題であると判断できます。
実践!自社の限界利益を計算する3ステップ
「難しそうだ」と思われるかもしれませんが、手順を踏めば必ずできます。さっそく自社の製品の限界利益を計算してみましょう。
ステップ1:費用を「変動費」と「固定費」に分ける
まず、会社のすべての費用を、売上の増減に連動する「変動費」と、連動しない「固定費」の2種類に分けます。会計ソフトの勘定科目(製造原価、販管費など)を一度、この2つの視点で見直すのがポイントです。
- 変動費: 売上に応じて増減する費用
- 材料費: 製品の製造に直接必要な主要材料や補助材料の費用です。
- 外注費: 生産量に応じて支払う、一般的な加工依頼などの費用です。
- 労務費: 生産量の増減に合わせて雇用する短期パートタイマーの人件費などが該当します。
- 消耗品費: 商品の包装材など、売上と直接連動して発生する消耗品の費用です。
- 燃料費: 工場の機械を動かすための燃料など、生産量に比例して消費される費用です。
- その他経費: 電気代、通信費、システム利用料などのうち、使用量に応じて金額が変わる従量課金制の部分です。
- 固定費: 売上に関係なく、毎月(毎年)一定額かかる費用
- 労務費: 正社員や長期契約のパートタイマーなど、月給や時給が固定されている従業員の人件費です。
- 外注費: 業務量に関わらず、毎月定額で支払うコンサルティング契約やシステム保守契約などの費用です。
- 消耗品費: 売上との連動性がない、事務所で使う文房具などの費用です。
- その他経費:事務所の家賃や設備のリース代、減価償却費などです。電気代、通信費、システム利用料などのうち、毎月定額でかかる基本料金部分です 。
ステップ2:具体的な費用を仕分ける(データ入力の手順)
お手元に試算表や経費帳をご用意ください。以下の分類例を参考に、勘定科目ごとにどちらの費用に当てはまるか仕分け、Excelなどに入力していきます。
この仕分け作業が、限界利益を把握するための最も重要なステップです。
ステップ3:商品ごとに限界利益を計算する
ステップ2で分類した費用を基に、商品1個あたりの変動費を算出します。そして、以下の式で計算します。
- 限界利益(額) = 販売価格 - 商品1個あたりの変動費
- 限界利益率 (%) = 限界利益 ÷ 販売価格 × 100
これで、どの商品がどれだけ「儲け」に貢献しているかが一目瞭然になります。
計算結果をどう活かすか?
限界利益が分かれば、具体的な次のアクションが見えてきます。
- 交渉の優先順位をつける: 限界利益がマイナス、あるいは極端に低い商品から、価格交渉やコスト削減に着手します 。特に、製品に優位性がある(他社には真似できない強みがある)場合は、強気の交渉が可能です。
- 値上げの目標を立てる:
- 最低ライン: まずは変動費の上昇分を価格に転嫁し、「限界利益の額」を回復させることを目指します 。
- 目標ライン: 次に、あるべき「限界利益の率」を定め、それを達成するための価格を設定します。同業種の平均的な限界利益率も参考になります 。
まとめ
売上だけを追いかける経営は、霧の中を羅針盤なしで進むようなものです。「限界利益」という羅針盤を手に入れることで、自社の進むべき方向が明確になります。
まずは1つの商品からでも構いません。このコラムを参考に、ぜひ自社の限界利益を計算してみてください。その一歩が、会社の未来を大きく変えるきっかけになるはずです。
