「うちは居酒屋だから」「この業界はこうだから」
そんな”常識”に、あなたの会社の可能性を閉じ込めていませんか?
先日、テレビ東京系の経済番組「カンブリア宮殿」で特集された、手羽先で有名な「世界のやまちゃん」。創業者である夫の急逝を受け、専業主婦から突然社長に就任した山本久美氏が、会社を過去最高の売上高81億円に導いたストーリーは、多くの中小企業経営者にとって、衝撃的でありながら、大きな希望を感じさせるものだったのではないでしょうか。
今回は、山本社長が実践した「常識破りの経営戦略」を紐解き、私たち中小企業が今すぐ取り入れられる3つのヒントを考えていきます。
ヒント1:あなたの会社の本当の「強み」は何ですか?
多くの中小企業は「選択と集中」が重要だと言われます。世界のやまちゃんも、かつては「手羽先がうまい、サラリーマン向けの居酒屋」という一点に集中し、急成長を遂げました。
しかし、山本社長は「本当の強み」を別の角度から見つめ直しました。
同社の強みは「居酒屋という”業態”」ではなく、「『幻の手羽先』という、誰にも真似できない”商品”」であると再定義したのです。
考えてみてください。あのスパイシーな手羽先は、お酒のつまみだけでなく、ご飯のおかずにも、パーティーの一品にもなります。顧客はサラリーマンだけでしょうか?いいえ、女性だって、子供だって、誰もが好きな味のはずです。
<明日からできること>
自社の強みを「〇〇業」という枠で考えるのを一度やめてみましょう。そして、「お客様が本当にお金を払ってくれている価値(商品・サービス)は何か?」を突き詰めて考えてみてください。その価値は、今の業態や客層以外にも届けられる可能性を秘めているはずです。
ヒント2:「顧客の多様化」こそが、最強の安定経営に繋がる
「手羽先は、もっと多くの人に食べてもらえるはずだ」
そう考えた山本社長は、これまでメインターゲットとしてこなかった「ファミリー層」や「女性層」に目を向けました。
- デザートメニューを大幅に拡充
- 家族で気軽に入れる、明るく清潔な店舗デザイン
- お酒を飲まなくても楽しめる、食事メニューの強化
これらは、従来の「居酒屋の常識」からすれば、邪道だったかもしれません。しかし結果として、客層が劇的に拡大。平日の夜だけでなく、週末の早い時間帯から家族連れで賑わうようになり、売上の安定化に大きく貢献しました。
さらに、「手羽先とワイン」を提案する高級路線の新業態も展開。これは、ブランド全体のイメージを向上させ、「安くてうまい」だけではない、新たな価値を創造する試みです。
<明日からできること>
「うちはBtoBだから」「専門的なサービスだから」と、ターゲットを限定しすぎていませんか?自社の強み(商品・サービス)を、「今までとは全く違うタイプのお客様に届けるとしたら、何が必要か?」をチームでブレインストーミングしてみましょう。そこから新しいビジネスの芽が生まれます。
ヒント3:「素人目線」こそが、イノベーションの武器になる
山本社長は、元小学校教員で、経営は全くの素人でした。しかし、だからこそ「業界の当たり前」に染まっていませんでした。
- なぜ、居酒屋なのにデザートが貧弱なのだろう?
- なぜ、女性はもっと気軽に入れないのだろう?
そんな素朴な「なぜ?」が、次々と改革を生み出す原動力となったのです。カリスマ創業者だった夫のやり方を踏襲するのではなく、社員の声に耳を傾け、お客様の視点に立ち返る。その謙虚で真摯な姿勢が、社員の心を動かし、会社を一つのチームに変えていきました。
私たち経営者は、経験を積むほどに「業界の常識」や「過去の成功体験」に縛られがちです。しかし、市場は常に変化し、お客様のニーズも移り変わります。
<明日からできること>
あえて、業界の常識と逆のことを考えてみましょう。そして、新入社員や、あなたのビジネスを全く知らない友人に「うちの会社のサービス、どう思う?」と聞いてみてください。あなたが思いもよらなかった、経営をブレークスルーさせるヒントが、その「素人目線」に隠されています。
まとめ
世界のやまちゃんのV字回復は、決して魔法ではありません。
- 自社の「本当の強み」を再定義し、
- その強みを、より多くの人に届けるために「業態の枠」を取り払い、
- 業界の常識を疑う「素人の視点」で改革を進める。
この普遍的な原則を、愚直なまでに実践した結果です。
「カンブリア宮殿」で語られた山本社長の挑戦は、私たち中小企業経営者に力強いメッセージをくれました。会社の規模は関係ない。自社の価値を信じ、勇気をもって一歩踏み出せば、会社はまだまだ成長できる。
さあ、あなたの会社の「幻の手羽先」は何ですか?そして、それを届けたい新しいお客様は誰ですか?
まずはそこから、考えてみてはいかがでしょうか。
