「うちの顧客のことは、長年の付き合いだからよく分かっているよ」

社長、本当にそうでしょうか?

カレーハウスCoCo壱番屋の創業者である宗次德二氏が、毎朝4時55分に出社し、全国から届くお客様アンケートハガキの全てに目を通していたという話は有名です。一杯のカレーのために、お客様一人ひとりの「生の声」を何よりも大切にし、それを経営改善に活かし続けたからこそ、巨大チェーンへと成長を遂げました。

「それは消費者向けの飲食店の話だろう。うちは法人相手のビジネスだから関係ない」

そう思われたなら、非常にもったいないことです。実は、顧客との関係性が長く、一社あたりの取引額が大きくなるBtoB(法人向け)ビジネスにこそ、顧客アンケートは企業の成長を左右する「宝の山」となるのです。

今回は、なぜBtoB企業が顧客アンケートに取り組むべきなのか、そして、明日から始められる具体的な方法についてお伝えします。

なぜ、今あなたの会社に「顧客アンケート」が必要なのか?

法人向けビジネスでは、顧客企業の担当者と良好な関係を築けているかもしれません。しかし、その担当者の声が、顧客企業全体の評価とは限りません。担当者は満足していても、実際に製品やサービスを使う現場の社員は不満を抱えている、あるいは、決裁者である上層部はコストパフォーマンスに疑問を感じている、といったケースは少なくないのです。

「知っているつもり」でいるうちに、静かに顧客満足度が下がり、ある日突然、競合他社に乗り換えられてしまう。これがBtoBビジネスの怖いところです。

顧客アンケートは、このような「サイレント・マジョリティ(物言わぬ多数派)」の声を拾い上げ、経営の舵取りに活かすための強力な羅針盤となります。

具体的には、以下のようなメリットが期待できます。

  • 解約の予兆を察知し、対策を打てる
  • 製品・サービスの思わぬ改善点を発見できる
  • アップセルやクロスセルの新たな機会を見つけられる
  • 顧客が自社を「選んでくれている理由」を再認識し、強みを伸ばせる
  • 社員のモチベーション向上に繋がる(感謝の声は最高の報酬です)

BtoBならではのアンケート、「何」を「どう」聞くか?

消費者向けアンケートと違い、BtoBでは「誰に」「何を聞くか」が重要です。決裁者、担当者、現場の利用者など、立場によって視点が異なるためです。

まずは、窓口となってくれている担当者の方に協力を依頼し、アンケートを実施してみましょう。

アンケート内容の具体例

いきなり長文のアンケートでは、忙しい担当者も答えてくれません。5〜10問程度の、答えやすい質問から始めるのが成功の秘訣です。

<基本の質問>

  1. 当社の〇〇(製品・サービス名)への総合的な満足度を教えてください。(5段階評価など)
  2. 当社の製品・サービスを導入する前に、どのような課題がありましたか?
  3. 数ある企業の中から、なぜ当社を選んでいただけたのでしょうか?(競合と比較しての決め手など)
  4. 導入後、その課題はどのように解決されましたか?もしよろしければ、具体的な効果(時間削減、コスト削減など)を教えてください。
  5. 当社の担当者の対応(提案力、レスポンスの速さなど)はいかがでしょうか?

<さらに深掘りする質問>

  • 「もし、当社の製品・サービスを知り合いの経営者におすすめするとしたら、その可能性は10点満点で何点ですか?」
    • これはNPS®(ネット・プロモーター・スコア)と呼ばれる指標で、顧客ロイヤルティを測るための世界的な標準です。点数とその理由を聞くことで、企業の本当の評価が分かります。
  • 「今後、当社の製品・サービスに期待することは何ですか?」

アンケートの収集方法

大掛かりなシステムは必要ありません。中小零細企業でも、今すぐ無料で始められる方法があります。

  • Webアンケートフォームを使う
    • GoogleフォームMicrosoft Formsを使えば、専門知識がなくても簡単にアンケートを作成できます。メールでURLを送るだけで、回答も自動で集計されるため、手間がかかりません。
  • 営業担当者がヒアリングする
    • 定期訪問や打ち合わせの際に、「5分だけお時間をください」とお願いし、対面でヒアリングするのも有効です。会話の中から、アンケートだけでは分からない本音を引き出せる可能性もあります。
  • 導入後のフォローアップに組み込む
    • 製品・サービスの導入から3ヶ月後、1年後といったタイミングで、状況確認と合わせてアンケートをお願いするのも自然な流れです。

「宝の山」を掘り起こし、経営に活かす

アンケートは、集めて終わりでは意味がありません。CoCo壱番屋の宗次氏がそうしたように、社長自らが全ての声に目を通し、そこから何をすべきかを考えることが最も重要です。

  • 良いご意見: 社内で共有しましょう。「〇〇社の△△様から、こんなお褒めの言葉をいただいたぞ!」という一言が、社員の士気を高め、自信に繋がります。
  • 厳しいご意見: これこそが成長の種です。なぜそのような評価になったのかを真摯に受け止め、具体的な改善策を練り、実行しましょう。そして、改善したことを、意見をくださった顧客に報告することを忘れてはいけません。「貴重なご意見ありがとうございました。いただいたご意見を元に、このように改善いたしました」と伝えることで、顧客の信頼は驚くほど高まります。

まとめ:今日からできる、未来への投資

CoCo壱番屋は、お客様から送られてくるハガキ一枚一枚を大切にしました。現代の私たちは、Webフォームという、当時から見れば魔法のようなツールを無料で使うことができます。

顧客の声を聞くことは、コストのかかる活動ではありません。未来の売上と利益を生み出すための、最も確実な「投資」です。

社長、まずは一社で構いません。日頃からお付き合いのあるお客様に、勇気を出して聞いてみませんか?

「私たちのサービス、いかがでしょうか?」と。

その一歩が、あなたの会社を次のステージへと導く、大きな推進力になるはずです。