会社の資金繰りを支える大切な売掛金。「いつも通り支払われるはず」と思っていても、取引先の状況が急変し、入金が遅れたり、連絡が取れなくなったりすることは、残念ながらどんな企業にも起こり得ます。
特に、経営資源が限られる中小・零細企業にとって、売掛金の回収不能は死活問題に直結しかねません。
「まさか、あの取引先が…」
そんな不測の事態に直面したとき、冷静に対応できるかどうかで、会社が受けるダメージは大きく変わります。
今回は、売掛金の回収不能リスクに直面した経営者の皆様が、冷静に、そして段階的に取るべき4つのステップを、お役立ち情報として分かりやすく解説します。
大前提:まずは慌てず「契約書」を確認しましょう
相手への連絡を試みる前に、まず確認すべきは「取引基本契約書」や「注文書」です。
支払い遅延が発生した場合に、「商品の引き揚げ」や「サービスの提供停止」を検討する経営者の方も多いでしょう。これは非常に有効な手段ですが、契約書にその旨の記載がない場合、一方的に実行すると「契約不履行」として逆に訴えられるリスクもゼロではありません。
まずは自社が法的にどのような権利を持っているのか、契約書を見て冷静に確認することが、全ての行動の第一歩です。相手側の同意が必要なものは、適切に同意を得てから実行しましょう。
ステップ1:まずは冷静に「柔軟な催促」から
感情的になって「すぐに支払ってください!」と高圧的に迫るのは逆効果です。まずは状況確認から始めましょう。
やるべきこと
- 事務的な連絡を装う: 「経理上の確認ですが、〇月分のお支払い状況はいかがでしょうか?」といった形で、電話やメールで連絡します。相手が単に忘れているだけの「うっかりミス」である可能性も十分にあります。
- 遅延理由のヒアリング: もし相手が支払えない状況にあるなら、その理由を具体的に聞くことが重要です。
- 「一時的に資金繰りが厳しい」
- 「月末には入金予定がある」
- 「こちらの請求書処理が漏れていた」
- 代替案の提示: 相手に支払い意思があるものの、すぐに全額は難しいという場合は、分割払いや支払期限の延期といった柔軟な対応を提案しましょう。関係性を維持しつつ、全額回収不能という最悪の事態を避けられる可能性が高まります。
この段階では、相手を追い詰めるのではなく、問題解決のパートナーとしての姿勢を見せることが、円満な回収への近道です。
ステップ2:被害を拡大させない「取引の一時停止」
柔軟な催促にもかかわらず支払いがなかったり、遅延が常態化したりしている取引先に対しては、勇気を持って次の手を打つ必要があります。
やるべきこと
- 追加の受注・納品をストップ: これ以上、未回収金を増やさないために、取引を一時的に停止します。
- 毅然とした態度で通知: 「誠に恐縮ですが、先月分のご入金が確認できますまで、新たな商品の発送(サービスの提供)を一時停止させていただきます」と、メールや書面で明確に通知します。
これは関係を断つためではなく、これ以上のリスク拡大を防ぐための経営判断です。支払いが確認できれば取引を再開する用意があることを伝え、相手の対応を促しましょう。
ステップ3:専門家の力を借りる「法的手続きの検討」
相手が支払いを完全に拒否したり、交渉に一切応じなくなったりした場合は、残念ながら当事者間での解決は困難です。この段階で、法的な手続きを視野に入れることになります。
やるべきこと
- 内容証明郵便の送付: 「〇日以内に支払いがない場合、やむを得ず法的措置に移行します」という内容の書面を、郵便局が公的に証明してくれる形で送ります。これは「本気である」という強い意思表示となり、相手に心理的なプレッシャーを与え、支払いを促す効果が期待できます。弁護士名義で送付すると、さらに効果が高まります。
- 支払督促や少額訴訟の検討:
- 支払督促: 裁判所から相手に督促状を送ってもらう簡易な手続きです。
- 少額訴訟: 60万円以下の金銭トラブルの場合、原則1回の期日で判決が出るスピーディな裁判制度です。
ただし、法的手続きには弁護士費用や実費がかかります。回収したい金額と、手続きにかかるコストや時間(費用対効果)を天秤にかけ、実行するかどうかを慎重に判断しましょう。
ステップ4:最後の砦「損金処理」で税負担を軽減
あらゆる手を尽くしても、残念ながら回収が不可能になるケースもあります。相手の倒産や夜逃げなど、客観的にみて回収が絶望的と判断された場合です。
このとき、ただ諦めるのではなく、必ず行うべきなのが「経理上の処理」です。
やるべきこと
- 貸倒損失として損金処理する: 回収不能となった売掛金は、税法上のルールに則って「貸倒損失(かしだおれそんしつ)」として経費計上(損金処理)できます。
- 税負担の軽減: 損失を計上することで、その年度の利益が圧縮され、結果として法人税や事業税などの税負担を軽減することができます。
どのタイミングで、どのような条件を満たせば損金処理できるかについては、専門的な判断が必要です。必ず顧問税理士に相談し、適切な処理を行いましょう。
まとめ:最善の策は「予防」にあり
売掛金の回収トラブルは、発生してからの対応も重要ですが、最も重要なのは「発生させないための予防策」です。
- 取引前の与信調査を徹底する
- 支払条件や遅延損害金を明記した契約書を必ず交わす
- 定期的に売掛金の残高を確認し、管理体制を整える
経営者として、毅然と、しかし冷静に対応することが、あなたの大切な会社を守る力になります。今回のステップが、万が一の際の羅針盤となれば幸いです。
