免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的な助言を行うものではありません。個別の状況については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。


資金繰りに奔走し、眠れない夜を過ごされていることと存じます。従業員の顔、取引先の顔、そして家族の顔が浮かび、その責任の重さに押しつぶされそうになっているかもしれません。

「債務超過で、来月の資金もショートする…もう万策尽きた」

この記事は、まさに今、そのように感じている経営者のあなたのために書いています。しかし、これは「諦め」を勧めるものではありません。会社の「延命」から、関わる人々とあなた自身の未来へのダメージを最小限にする「軟着陸(ソフトランディング)」へと、考え方をシフトするための記事です。

思考の転換:「延命」から「軟着陸」へ

これまで経営者として、会社の存続のために全力を尽くされてきたはずです。そのご尽力は、決して無駄ではありません。しかし、資金ショートが目前に迫ったとき、無理な延命策はかえって傷口を広げる危険があります。

  • 高利な資金に手を出す
  • 一部の取引先に無理を言って商品を納入させる
  • 個人資産を際限なく会社につぎ込む

これらの行為は、従業員や取引先、そして何より経営者ご自身の再起の道を、より険しいものにしてしまいます。

今、考えるべきは「どうすれば事業を続けられるか」から「どうすれば最もきれいに着地できるか」への意識転換です。きれいに着地すること、すなわち「軟着陸」は、経営者として果たすべき最後の、そして最も重要な責任の一つです。

今すぐ、たった3つのことを始めてください

パニックになりそうな時こそ、具体的な行動が冷静さを取り戻す助けになります。以下の3つを、今日からすぐに始めてください。

「えこひいき」な支払いを止める

「お世話になったあの会社にだけは払いたい」「親族からの借入金だけでも返したい」

そのお気持ちは痛いほど分かります。しかし、法的にはそれは「偏頗弁済(へんぱべんさい)」という、債権者平等の原則に反する行為と見なされる可能性があります。

会社の清算(破産など)が決まった場合、この支払いは法的に無効とされ、お金を受け取った相手にも迷惑をかけることになりかねません。苦しい決断ですが、弁護士の指示があるまで、一部への返済を止め、全ての債務を平等に扱う準備をしてください。

  •  「机の引き出し」を整理する

会社の現状を正確に把握することが、次の一手を決める羅針盤になります。感情を一旦横に置き、淡々と事実を集めましょう。これは、専門家(弁護士)に相談する際の必須資料にもなります。

  • 資産リスト:預金通帳、不動産、売掛金、在庫、機械、車など、プラスの財産すべて
  • 負債リスト:借入先、買掛先、リース会社、未払の税金や社会保険料など、マイナスの財産すべて
  • 決算書・試算表:直近3期分の決算書と、最新の試算表
  • 従業員名簿:未払給与や退職金の状況

これらを整理することは、カオスに見える状況を客観視する助けにもなります。

「嵐の中の航海士」を雇う

会社をたたむという決断は、荒れ狂う嵐の海へ船出するようなものです。自分一人で乗り切れるものではありません。

今すぐ、企業の倒産問題に精通した弁護士に相談してください。

弁護士は、あなたを責める人ではありません。あなたの代理人として、債権者との交渉、法的手続きの進行、そして従業員への対応まで、あらゆる面であなたを守ってくれる「嵐の中のプロの航海士」です。

相談するだけで、精神的な負担は驚くほど軽くなります。「相談=即破産」ではありません。現状で取りうる選択肢(破産、特別精算、あるいは他の道)を、冷静に示してくれます。

経営者ご自身の「これから」を考える

中小企業の経営では、「会社=自分」と考えがちです。しかし、会社の法人格と、あなたの個人格は別物です。そして多くの場合、会社の債務を個人で保証している「経営者保証」が、あなたの再スタートを阻む最大の壁となります。

「経営者保証に関するガイドライン」という国の制度があることをご存知でしょうか。

これは、誠実に経営をしてきた経営者が、会社の倒産によってすべてを失い、再起不能になることを防ぐためのルールです。弁護士と相談し、このガイドラインを上手く活用すれば、自宅などの資産の一部を手元に残したまま、個人の債務を整理できる可能性があります。

会社の幕引きは、あなたの人生の終わりではありません。むしろ、次の人生を始めるための第一歩です。

最後に

会社の終わりを決断することは、身を切られるように辛いことです。しかし、その決断が遅れるほど、状況は悪化し、より多くの人を巻き込み、あなた自身の未来も蝕んでいきます。

勇気を持って現実と向き合い、専門家の力を借りて「軟着陸」への舵を切ること。

それが、これまで身を粉にして守ってきた会社と、関わってくれた人々、そして何よりあなた自身の未来を守るための、最善の道であると信じています。

この決断は、終わりではなく、新しい未来への第一歩です。

免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的な助言を行うものではありません。個別の状況については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。