社長の皆様、日々、営業から経理、そして現場の指揮まで、本当にめまぐるしい毎日をお過ごしのことと存じます。
そんなお忙しい中、取引先との契約書を取り交わす機会も多いでしょう。その際、会社の名前をどのように記載していますか?
もしかして、いつも使っている通称や、「(株)」のような略称でサインしてしまってはいないでしょうか?
実は、その「ちょっとした手間を省く行為」が、将来、会社を揺るがすほどの大きなトラブルに発展する可能性があるのです。今回は、契約書に潜む「社名」の落とし穴について、警鐘を鳴らしたいと思います。
「まあ、通じればいいでしょ?」が一番危ない
例えば、あなたや取引先の会社の登記上の正式名称が「ABCプランニング株式会社」だとします。
しかし、普段は「ABCプランニング」や、もっとシンプルに「ABC」と名乗っているかもしれません。
この「いつもの名前」で契約書を作ってしまうと、一体何が起こるのでしょうか?
一言で言えば、「その契約、誰としたんですか?」という根本的な問題が発生します。
契約とは、法律で守られた「会社と会社の約束」です。しかし、法律上の会社は、登記簿に記載された「正式名称」でしか存在を特定できません。通称や略称は、いわば「あだ名」のようなもの。法的な効力を持つ場面では通用しないのです。
舐めてはいけない!社名不一致の3大リスク
「大げさな…」と思われるかもしれません。しかし、いざ紛争が起きたとき、この問題は牙を剥きます。
- リスク1:契約そのものが「無効」だと主張される
- リスク2:裁判で勝っても、お金を回収できない
- リスク3:余計な時間と費用で、本業が圧迫される
上記のような事態になれば、解決のために弁護士を雇う費用や、裁判にかかる時間が膨大に発生します。中小零細企業にとって、このロスは致命的です。本来、事業を成長させるために使うべきだった貴重なリソースを、防げたはずのトラブル対応に費やすことになってしまいます。
【今すぐ確認!】契約書の鉄則はこれだけ
では、どうすれば良いのか? 答えは非常にシンプルです。
契約書に記載する社名は、必ず「登記簿謄本(履歴事項全部証明書)」に書かれている通りに、一字一句正確に書く。
これに尽きます。
- 「株式会社」は(株)と略さない
- 社名の前につくか(前株)、後につくか(後株)を正確に
- 本店所在地(住所)も登記の通りに記載する
もし、契約書の中で何度も社名が出てきて、毎回書くのが大変な場合は、契約書の冒頭で次のように定義しましょう。
(例文)
ABCプランニング株式会社(本店所在地:東京都〇〇区…、以下「甲」という。)と、株式会社XYZ(本店所在地:神奈川県△△市…、以下「乙」という。)は、…
こうすれば、契約書の中では「甲」「乙」というシンプルな呼び名が使え、間違いも起こりません。
まとめ:契約書は、未来の会社を守る「盾」
社長の皆様が日々汗水流して築き上げてきた会社と、その大切な財産。それを守るのが契約書です。
「神は細部に宿る」と言いますが、契約書の「社名」という細部こそ、会社の安全を守るための生命線です。日々の忙しさの中でも、契約書にサインするその瞬間だけは、どうか立ち止まって社名を確認する癖をつけてください。
その数秒の確認が、未来の計り知れないリスクから、あなたの会社を救うことになるのです。契約リスク対策も一緒に伴走支援できる行政書士資格も保有する中小企業診断士をお探しでしたら、当事務所の経営伴走サポートをご利用ください。
【注意】契約書作成に関しては、行政書士は交渉前の原案の作成、または交渉がまとまった後の文面の作成を取り扱えるにとどまります。依頼者の代理人として契約の相手方に原案を提示することや、契約の内容について交渉することはできません。
