社長室から見る会社の景色は、今日も良好でしょうか。大きなクレームはなく、売上も安定している。「我が社の業務プロセスは、大きな問題もなく完璧に回っている」——。そうした手応えを感じていらっしゃるかもしれません。
しかし、もしその「完璧」が、会社の未来の成長を妨げる「見えない足かせ」になっているとしたら、どう思われますか?
今回は、多くの経営者が見過ごしがちな「問題がない」ことの裏に潜む、本当の課題についてお話しします。
「問題ない」と「最適」は違う
まず大前提として、「顕在化した問題がない」ことと「業務が最適である」ことは全く違います。
社長の元に届くのは、火事のような大きなトラブルや、最終的な結果である売上報告です。しかし、現場では「火種」となるような小さな非効率が、毎日、何度も繰り返されている可能性があります。
その典型例が、多くの会社で今も現役の「Excelによる顧客管理」です。
事務所のパソコンで見る分には、Excelは非常に優秀なツールです。しかし、営業担当者がお客様先で「あの時の取引内容を確認したい」と思った時、どうしているでしょうか。
- 小さなスマホ画面で、指で拡大しながら必死にセルを探す
- 「事務所に戻って確認します」と、商談の熱が冷める一言を言ってしまう
- 会社に電話して、内勤のスタッフに確認してもらう(双方の時間を奪う)
- 手元のメモに書き留め、帰社後にExcelへ転記する(二度手間と入力ミスの温床)
これらは全て、社長の目には「見えないコスト」です。現場の従業員は、この「あり得ない面倒くささ」と毎日戦っています。
あなたの会社が毎日支払っている「見えないコスト」とは?
今のやり方を続けることで、会社が失っているものは想像以上に大きいかもしれません。
- 時間という名の人件費
- 1日1人あたり15分の非効率な時間。それは、月にすれば5時間(15分×20日)。従業員5人なら月間25時間です。この時間を時給換算すれば、会社がどれだけのコストを「無駄」に支払っているか、お分かりいただけるでしょう。
- 逃した商談(機会損失)
- 「鉄は熱いうちに打て」とは、まさに商談のこと。顧客が興味を示したその瞬間に、過去の履歴に基づいた的確な提案ができていれば…。その場で即座に回答できていれば…。その「一手」の遅れが、何件の商談を失ってきたでしょうか。
- 従業員のやる気(モチベーション)
- 非効率な作業を強いられることは、従業員のエンゲージメントを確実に低下させます。「会社は自分たちの仕事を楽にしようと思ってくれていない」という不満は、静かに、しかし確実に組織を蝕み、優秀な人材の離職に繋がりかねません。
解決策は、驚くほど身近で安価になっている
「しかし、新しいシステムの導入は高いだろう?」
そう思われるかもしれません。しかし、時代は大きく変わりました。
かつて何百万円もした業務システムが、今では月々数千円から数万円で利用できるSaaS(クラウドサービス)として豊富に存在します。
さらに、「ノーコード」「ローコード」と呼ばれるツールを使えば、プログラミングの知識がなくても、まるでパワーポイントを操作するような感覚で、自社にぴったりのスマホアプリを数時間〜数日で作ることさえ可能です。
<スマホアプリで何が変わるのか>
- いつでもどこでも、必要な情報に瞬時にアクセスできる。
- スマホに最適化された画面で、ストレスなく情報の閲覧・入力ができる。
- 現場で入力した情報が、リアルタイムで会社全体のデータに反映される。
- 写真や位置情報も、報告書に簡単に添付できる。
Excelでの管理を、こうしたスマホアプリに置き換えるだけで、先ほど挙げた「見えないコスト」のほとんどを解消できるのです。
大きな変化への、小さな第一歩
とはいえ、いきなり全社の仕組みを変えるのは勇気がいることです。そこで、社長にぜひお試しいただきたい「第一歩」をご提案します。
提案1:現場の仕事を「見て」みる
今週、一度だけで構いません。営業担当者に同行し、お客様先で彼らがどのように情報を確認し、メモを取っているかを、その目でご覧になってみてください。社長室からは見えなかった「現実」がそこにあるはずです。
提案2:「お試し」でアプリを作らせてみる
社内でITに詳しそうな若手社員に、「ノーコードツール(例えば Google AppSheet や Glide、日本企業なら Kintone など)の無料トライアルで、簡単な顧客リストアプリを作ってみてくれないか」と声をかけてみてください。おそらく1日もかからずに、社長のスマホで動く試作品が完成し、その威力に驚かれることでしょう。
会社の「完璧」を築き上げてこられた社長のこれまでのご経験と判断は、大変尊いものです。しかし、時代は常に変化し、より良い道具が次々と生まれています。
「問題がない」現状に満足するのではなく、現場の「もっと楽にできるはず」という声に耳を傾けること。それこそが、会社の競争力を高め、従業員がより意欲的に働ける環境を作り、未来の成長を確実にするための、最も重要な次の一手です。
まずはその「完璧」に、小さな疑問符を投げかけることから始めてみてはいかがでしょうか。
