会社の成長に伴い、初めて従業員を雇うことは、中小零細企業の経営者にとって大きな喜びであると同時に、多くの手続きが必要となる重要なステップです。
「何から手をつければいいのか分からない」「手続きが漏れていたらどうしよう」といった不安を抱えていませんか?
今回は、初めて従業員を雇う中小零細企業の社長様に向けて、必要な手続きを分かりやすく、順を追って解説します。この記事を読めば、安心して従業員を迎え入れる準備ができます。以下のチェックシートも利用してみてください。
ステップ1:採用の準備|まず決めるべきこと
従業員を募集する前に、まず労働条件を明確に定めておく必要があります。後々のトラブルを防ぐためにも、以下の項目は必ず決めておきましょう。
- 雇用形態: 正社員、契約社員、パートタイマー、アルバイトなど、どの形態で雇用するのかを決めます。
- 業務内容: 具体的にどのような仕事を担当してもらうのかを明確にします。
- 労働時間・休憩・休日: 1日の労働時間、休憩時間、休日(週休2日制など)を定めます。法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)を超える場合は、36協定の届出が必要になります。
- 賃金: 給与の金額、計算方法(月給、時給など)、支払日、締切日、昇給の有無などを決定します。都道府県ごとに定められた最低賃金を必ず確認しましょう。こちらの厚生労働省のサイトから確認できます。
- 就業場所: 勤務する場所を定めます。
これらの条件は、後のステップで作成する「労働条件通知書」に記載する重要な項目です。
ステップ2:契約の手続き|労働条件通知書の交付
従業員の採用が決まったら、必ず「労働条件通知書」を交付しなければなりません。これは法律で定められた義務です。口頭での約束だけでなく、書面で明確に労働条件を伝えることで、後のトラブルを未然に防ぎます。
2024年4月からは、労働条件の明示事項が追加されていますので注意が必要です。
【主な記載事項】
- 契約期間
- 就業場所、業務内容
- 労働時間、休憩、休日、休暇
- 賃金の決定、計算・支払方法、締切・支払時期
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
- 【2024年4月〜追加】就業場所・業務の変更の範囲
- 【2024年4月〜追加】更新上限の有無と内容(有期契約の場合)
- 【2024年4月〜追加】無期転換申込機会、無期転換後の労働条件(有期契約の場合)
労働条件通知書は、雇用契約書と一体となった「雇用契約書兼労働条件通知書」として作成することも可能です。
ステップ3:労働保険の手続き|労災保険と雇用保険
従業員を一人でも雇用した場合、事業主は労働保険(労災保険・雇用保険)に加入する義務があります。これは、パートやアルバイトであっても同様です。
1. 労働保険関係成立届
まず、会社として労働保険に加入するための手続きです。
- 提出先: 所轄の労働基準監督署
- 提出期限: 従業員を雇用した日の翌日から10日以内
- 手続き: この届出を行うと、労働保険番号が発行されます。この番号は今後の手続きで必要になります。
2. 雇用保険適用事業所設置届・資格取得届
次に、雇用保険の手続きです。
- 提出先: 所轄のハローワーク
- 提出期限: 従業員を雇用した日の翌日から10日以内
- 必要なもの: 労働保険関係成立届の控え、従業員のマイナンバーなど
【加入対象者】
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上の雇用見込みがある
ステップ4:社会保険の手続き|健康保険と厚生年金
法人の事業所や、常時5人以上の従業員を使用する個人事業所は、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられています。
1. 新規適用届
会社として社会保険に初めて加入する際に必要な手続きです。
- 提出先: 所轄の年金事務所
- 提出期限: 事実発生から5日以内
2. 被保険者資格取得届
従業員を社会保険に加入させるための手続きです。
- 提出先: 所轄の年金事務所
- 提出期限: 雇用日から5日以内
- 必要なもの: 従業員の基礎年金番号通知書または年金手帳、マイナンバーなど
【加入対象者(パート・アルバイトの場合)】
正社員は原則加入です。パート・アルバイトは、1週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が、同じ事業所で働く正社員の4分の3以上である場合に加入対象となります。
さらに、従業員数101人以上(2024年10月からは51人以上)の企業では、以下の条件を満たすパート・アルバイトも加入対象となります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 雇用期間が2ヶ月を超える見込み
- 学生ではない
ステップ5:税金の手続き|給与から天引きする税金
従業員に給与を支払うと、所得税の源泉徴収(給与から天引きして国に納付)を行う義務が生じます。
1. 給与支払事務所等の開設届出書
初めて給与の支払いを行う場合に必要です。
- 提出先: 所轄の税務署
- 提出期限: 給与支払事務所を設置した日から1ヶ月以内
2. 源泉徴収のための手続き
従業員から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらいます。この書類に基づいて、毎月の給与から源泉徴収する所得税の額が決まります。
ステップ6:その他|必ず整備すべき書類
法律で作成・保管が義務付けられている「法定三帳簿」を整備しましょう。
- 労働者名簿: 従業員の氏名、生年月日、住所、履歴などを記載した書類。
- 賃金台帳: 従業員ごとの給与の支払状況(労働日数、労働時間数、基本給、手当、控除額など)を記録した書類。
- 出勤簿: タイムカードやICカードの記録など、従業員の出退勤時刻を記録した書類。
これらの書類は、労働基準監督署の調査などで提示を求められることがあります。
まとめ
初めて従業員を雇う際には、想像以上に多くの手続きが必要です。しかし、一つひとつを確実に行うことが、従業員が安心して働ける職場環境の第一歩であり、企業の信頼にも繋がります。
これらの手続きは期限が短く、複雑に感じるかもしれません。もし、ご自身での手続きに不安がある場合は、社会保険労務士や税理士などの専門家に相談することも有効な選択肢です。
専門家のコーディネートや書類作成の支援が必要でしたら、当事務所の経営伴走サポートをご利用ください。
