「我が社の強みとは一体何だろうか…」
社長室で、腕を組み、難しい顔で考え込んでいませんか? 競合のホームページを見ては溜息をつき、「日本一」や「業界随一」といった分かりやすい武器がない自社を歯がゆく思っていませんか?
もし、そうだとしたら。大変申し上げにくいのですが、その「強み探しの旅」は、おそらく永遠に終わりません。なぜなら、その旅は、出発点からして道を間違えている可能性が高いからです。
なぜ、「強み探し」は空回りするのか?
多くの真面目な社長ほど、「自社の強みは、高品質だ」「いや、長年培った技術力こそが強みだ」と、自社の中にある“何か”を探し続け、それを社員に唱和させようとします。
しかし、その「強み」とやらは、残念ながらお客様にはほとんど響きません。
お客様は、こう感じています。
- 「その高い技術力とやらは、私の何の得になるの?」
- 「高品質らしいけど、だから何?」
お客様が知りたいのは、あなたの会社が何を持っているか、ではありません。「自分の悩みや課題を、この会社がどう解決してくれるのか」、ただその一点です。
つまり、「強み」とは、自社の中をいくら探しても見つかるものではないのです。
発想を180度変えよう! 地図はお客様が持っている
では、どうすればいいのか?
答えはシンプルです。考える順番を、完全に逆にするのです。
【間違いの思考順路】
自社の強みは何か? → この強みをどう売るか? → 誰が買ってくれるか?
【正解の思考順路】
- お客様は、どんなことで困っているのか?(課題の発見)
- その困りごとを解決するために、自社は何ができるのか?(貢献の定義)
- その解決策こそが、打ち出すべき「本当の強み」である。(価値の言語化)
さあ、具体的なステップを見ていきましょう。
ステップ1:お客様の「困った…」に耳を澄ます
まず考えるべきは、自社のことではなく、お客様のことです。それも、ぼんやりとした「市場」や「顧客層」ではありません。いつもお世話になっている、具体的な“あの人”の顔を思い浮かべてください。
A社のB部長は、最近どんなことで悩んでいましたか?
C商店のD店長は、電話口で何をぼやいていましたか?
「コストを下げたい」「納期を縮めたい」といった直接的な要望だけではありません。
- 「専門用語が分からなくて、どう頼んでいいか不安だ…」
- 「もっと本業に集中したいのに、面倒な作業が多い…」
- 「急な変更に対応してもらえず、チャンスを逃した…」
こうした、お客様の“不”の感情(不満、不安、不便)にこそ、宝の地図が隠されています。
ステップ2:自社の「お役に立てます!」を見つける
お客様の具体的な困りごとが見えたら、次はその解決策を考えます。ここで初めて、自社のリソースに目を向けます。
例えば、ある小さな部品メーカーの例で考えてみましょう。
- お客様の困りごと: 「機械の耐久性が低く、頻繁なメンテナンスに時間もコストもかかって困っている」
- 自社にできること(リソース): 「長年培った、ミクロン単位の精密加工技術がある。これで部品の摩耗を極限まで減らせるはずだ」
- 解決策(貢献): 「うちの技術を使えば、部品の寿命が2倍になり、御社のメンテナンスコストと手間を半分にできますよ!」
いかがでしょうか。「精密加工技術」という言葉だけではピンとこなかったお客様も、「メンテナンスコストが半分になる」と言われれば、がぜん興味が湧いてくるはずです。
ステップ3:それこそが「本物の強み」と知る
ステップ2で生まれた「お客様の課題解決策」。それこそが、あなたの会社が胸を張って打ち出すべき「強み」です。
× 間違い:「我が社の強みは、ミクロン単位の精密加工技術です」
◎ 正解:「我が社は、御社のメンテナンスコストを半減させる高耐久部品で、事業に貢献します」
「日本一」である必要など、どこにもありません。「A社のB部長が抱える、あのニッチな悩みを解決できるのは、地域広しといえど、うちだけだ」。それで十分すぎるほどの、強力な「強み」になるのです。
さあ、社長。旅に出る方向を変えましょう
社長の仕事は、社内に向かって「強みは何か?」と問い続けることではありません。お客様のもとへ出向き、その声に耳を澄まし、「何かお困りごとはありませんか?」と問いかけることです。
強みは、探すものではなく、お客様との関係性の中で「創り出す」ものなのです。
今すぐ、一番大切なお客様の顔を思い浮かべてみてください。そして、その方の「困った…」を解決するために、あなたの会社に何ができるかを考えてみてください。
そこから、本当に選ばれる会社への、新しい旅が始まります。
