長年、心血を注いで会社を育ててこられた社長様。

そろそろ次の世代へ…と考え始めたとき、ふと、こんな不安がよぎることはありませんか?

  • 「決算書の数字は見せられる。でも、うちの会社の本当の価値はそこだけじゃないんだ…」
  • 「長年培ってきた技術や、お客様との深い信頼関係。この『見えない価値』を、後継者はどうやって理解してくれるだろうか?」
  • 「この想いも、苦労も、全部含めて会社なんだが、どう伝えればいいんだ…」

そのお気持ち、痛いほどよく分かります。会社の本当の価値は、貸借対照表や損益計算書だけでは決して測れません。その「目に見えない強み」こそが、会社の魂であり、競争力の源泉です。

今日は、その大切な魂を、次世代へ確実に、そして力強く引き継ぐための「最強の道具」をご紹介します。それが、経済産業省が提供する「ローカルベンチマーク(ロカベン)」です。

「ロカベン」って、なんだか難しそう?いえ、会社の”健康診断書”です

「国が出しているフォーマットなんて、どうせ小難しくて面倒だろう」

そう思われるかもしれません。ですが、ロカベンを難しく考える必要はありません。一言でいえば、会社の「健康診断書」です。

体重や血圧(=財務情報)だけでなく、食生活や運動習慣、ストレスの状況(=非財務情報)まで含めて、会社の全体像を把握するためのツールだと思ってください。

特に事業承継で役立つのが、この「非財務情報」の部分です。

  • 商流・業務フロー: なぜお客様は競合ではなく、あなたの会社を選んでくれるのか?
  • 4つの視点:
    • 経営者のあなた自身について
    • 事業について(技術、ノウハウなど)
    • 社内の組織体制について
    • 顧客との関係について

これらの項目を埋めていく作業は、まさに「会社の価値の棚卸し」そのものなのです。

ロカベンが、事業承継の「3つの壁」を壊します

では、この「会社の価値の棚卸し」が、事業承継において具体的にどう役立つのでしょうか。

【壁1】「言わなくても分かるだろう」の壁 → 強みを『見える化』し、共通の地図を作る

社長の頭の中では当たり前の「うちの強み」。しかし、後継者にとっては、暗黙知でしかありません。ロカベンは、その暗黙知を具体的な言葉に置き換える作業です。

「うちは〇〇の技術があるから強い」

→ 「創業以来30年、改良を重ねた〇〇の独自技術があり、不良品率は業界平均の半分以下だ」

「顧客との付き合いが長い」

→ 「主要顧客A社とは先代からの付き合いで、毎月必ず対面で打ち合わせをし、潜在的なニーズまで汲み取っている」

このように書き出すことで、後継者は会社の強みを具体的に理解できます。それは、未来の経営という航海に出るための、信頼できる「宝の地図」になるのです。

【壁2】後継者の「本当にやっていけるのか…」という不安の壁 → 『事業の教科書』で、自信と覚悟を育む

事業を引き継ぐ後継者のプレッシャーは想像以上です。ロカベンで整理された資料は、後継者にとって最高の「事業の教科書」となります。

なぜ会社が成長できたのか、何を大切にしてきたのか。そのストーリーを理解することで、後継者は「この会社の価値を、自分が引き継いで伸ばしていくんだ」という自信と覚悟を持つことができます。

【壁3】M&Aで「買い叩かれるかも」という不安の壁 → 『客観的な魅力』を伝え、交渉を有利に進める

もしM&Aが選択肢なら、ロカベンはさらに強力な武器になります。買い手は、数字以上の「将来性」や「独自の価値」を求めます。

整理された非財務情報は、自社の魅力を伝える最高のプレゼンテーション資料です。「うちはこれだけの無形資産があります」と客観的に示すことで、適正な企業価値評価に繋がり、交渉を有利に進めることが可能になります。

さあ、始めてみましょう!簡単な3ステップ

「よし、やってみようか」と思っていただけましたら、ぜひこの3ステップで進めてみてください。

  1. 【ステップ1】まずは、社長お一人で。
    • 誰にも気兼ねなく、ご自身の言葉で書き出してみてください。会社の歴史を振り返る、感慨深い時間になるはずです。
  2. 【ステップ2】次に、右腕と。
    • 信頼できる幹部社員や、長年連れ添ってくれた古参社員を交えて、対話しながらブラッシュアップします。「専務から見たら、うちの強みって何かな?」この対話こそが、会社の結束をさらに固くします。
  3. 【ステップ3】最後に、後継者と。
    • 完成したロカベンを机の真ん中に置き、後継者とじっくり語り合ってください。これは単なる引き継ぎ作業ではありません。社長の「想い」と「哲学」が、後継者の心に深く刻まれる、神聖な儀式です。

社長が一代で、あるいは先代から受け継ぎ、守り育ててきたその会社は、社長ご自身の人生そのものだと思います。その輝かしい歴史と、目には見えない価値を、確かな形で未来へ繋ぐ。

ローカルベンチマークは、そのための、温かくも力強い伴走者となってくれるはずです。まずは一度、経済産業省のサイトからフォーマットをダウンロードしてみてはいかがでしょうか。未来への第一歩は、そこから始まります。