会社を我が子のように育ててこられた社長様へ。

毎日、資金繰りや従業員の生活、そして会社の未来のために奮闘されていることと存じます。その中で、「いつかはこの会社を、次の世代へ…」とお考えになったことは一度や二度ではないはずです。

しかし、その「いつか」を阻む大きな壁が、事業承継時の莫大な税金(贈与税・相続税)です。後継者が自社株を買い取る資金を用意できず、泣く泣く会社を畳んだり、M&Aで売却したりするケースは後を絶ちません。

そんな中、国が用意した「事業承継税制(特例措置)」という、まさに”切り札”と呼べる制度があることをご存じでしょうか?

この制度を使えば、後継者が引き継ぐ自社株にかかる贈与税や相続税の納税が100%猶予(実質免除)される可能性があります。つまり、税金の心配をせずに、会社の経営権をスムーズに次の世代へバトンタッチできるのです。

しかし、この”切り札”には、特例承継計画の提出が必要で、その期限が【令和8年3月31日】という、もう目前に迫ったタイムリミットがあります。そして、手続きの進め方を間違えると、せっかくのチャンスを逃してしまう”落とし穴”も存在するのです。

タイムリミットは【令和8年3月31日】!まず「特例承継計画」の提出を

この最強の制度を利用するための第一歩が、「特例承継計画」を都道府県に提出することです。この計画書には「私の会社は、この制度を使って、〇〇(後継者)へ引き継ぎます!」という意思表示を記します。

そして、この計画書の提出期限が【令和8年3月31日】なのです。
(適用期限は【令和9年12月31日】)

「まだ時間がある」と思われたでしょうか? いいえ、この計画書の作成は、専門家の支援を受けながら進める必要があり、決して一朝一夕にできるものではありません。会社の現状分析、後継者教育、そして5年間の経営計画の策定など、やるべきことは山積みです。残された時間は、決して多くないのです。

手続きの”落とし穴” ー 計画作成と税務申告の「ねじれ」に注意!

さて、ここからが本題です。この手続きには、社長様が必ず知っておくべき重要な”落とし穴”があります。

事業承継税制の手続きには、2つの異なる専門家が関わります。

  1. 計画の作成パートナー:「認定経営革新等支援機関」(以下、「認定支援機関」)
    • 「特例承継計画」は、国の認定を受けた金融機関や士業などの専門家(認定支援機関)に、「この計画はしっかりしていますね」というお墨付きをもらう必要があります。
  2. 税金の申告パートナー:「税理士」
    • 実際に税務署へ「納税を猶予してください」という申告書を提出するのは、税の専門家である税理士の独占業務です。

問題は、この2者が別々である場合に起こり得ます。

例えば、認定支援機関であるA銀行と一緒に立派な計画書を作ったとします。そして、いざ贈与を実行し、顧問のB税理士に「この計画で納税猶予の申告をお願いします」と依頼したとしましょう。

その時、B税理士がこう言う可能性があるのです。

「申し訳ありませんが、私が作成に関わっていない計画の税務申告は、責任が持てないのでお引き受けできません」

税理士にとって、納税猶予の申告は、その後のモニタリングも含めて非常に責任の重い業務です。自分が中身を精査していない計画に基づいて、万が一にも将来否認されるようなことがあれば、取り返しのつかない事態になります。そのため、他人が作った計画書での手続きを敬遠する税理士は少なくないのです。

こうなると、せっかく作った計画書が無駄になりかねません。慌てて別の税理士を探すも、期限は目前…という最悪のシナリオも考えられます。

社長が今すぐやるべきこと

では、どうすればこの”落とし穴”を避け、確実に会社の未来を守れるのでしょうか。

答えはシンプルです。今すぐ、事業承継の専門家に相談し、一貫したサポート体制を確保することです。

  1. まずは顧問税理士に相談する
    • 「先生、うちは事業承継税制の特例を使えますか? 先生の事務所は認定支援機関の資格をお持ちですか? 計画策定から申告まで、全部お願いできますか?」と聞いてみてください。もし顧問税理士が両方対応できるなら、それが最もスムーズです。
  2. 顧問税理士と連携できる認定支援機関を探す
    • もし顧問税理士が対応できない場合でも、諦める必要はありません。最寄りの商工会・商工会議所やメインバンク、士業など認定支援機関を探して、顧問税理士と連携する体制を整えてください。

時間は待ってくれません。会社の未来、そして大切な従業員とその家族の生活を守るため、まずは「話を聞いてみる」という一歩を踏み出してください。

社長のその決断が、会社の10年後、20年後を創ります。この最後のチャンスを、絶対に逃さないでください。