- 「まあまあ、昔からの付き合いだから」
- 「ちゃんとお金は払ってくれるだろう」
社長、そんな風に取引先との契約を「なあなあ」にしていませんか?日々の業務に追われる中で、契約書一枚一枚をじっくり確認するのは大変なこと。お気持ちはよく分かります。
しかし、その契約書にある”たった一文”が、万が一の時に会社を倒産の危機から救う「命綱」になるかもしれないとしたら…?
今回は、普段あまり聞き慣れないけれど、中小零憂企業の社長にこそ知っていただきたい「期限の利益の喪失」という、非常に重要な法律用語について、分かりやすく解説します。
そもそも「期限の利益」ってなんだ?
まず、「期限の利益」からご説明します。
これは、簡単に言えば「支払いを期日まで待ってもらえる権利」のことです。
例えば、取引先に100万円の商品を販売し、「月末締めの翌月末払い」で契約したとします。この場合、買主である取引先は、「翌月末」という期日が来るまで、代金100万円を支払わなくてもよいわけです。これが取引先の持つ「期限の利益」です。
私たち売り手側は、この「期限の利益」を相手に与えることで、取引をスムーズに進めています。
本題!会社を救う「期限の利益の喪失」とは?
ここからが本題です。
「期限の利益の喪失」とは、文字通り、相手に与えた「支払いを待ってあげる権利(期限の利益)」を失わせることです。
これが発動すると、どうなるのか?
「月末まで待つ必要はない。今すぐ残りの代金全額を支払ってください!」
と、相手に対して一括での支払いを法的に請求できるようになります。分割払いの途中であれば、残額の全てを一括で請求できるのです。
これが、なぜ重要なのでしょうか?
なぜ「期限の利益喪失条項」が会社のお守りになるのか?
想像してみてください。
主要な取引先A社の様子が、最近どうもおかしい。
- いつもは期日通りだった支払いが、初めて遅れた。
- 担当者に電話しても「社長が出張で…」などと言い訳をされる。
- 悪い噂を耳にするようになった。
こんな危険なサインが出始めたとき、どうしますか?
「月末締めの翌月末払い」という契約通りだと、まだ支払いを請求できる期日は先です。悠長に待っている間に、A社が他の債権者に財産を差し押さえられたり、夜逃げ同然に事務所を閉鎖したり、最悪の場合、破産してしまったら…?
売掛金は回収できず、あなたの会社も連鎖倒産の危機に瀕してしまうかもしれません。
しかし、契約書に「期限の利益喪失条項」がしっかりと記載されていれば、話は変わります。
支払いが1回遅れた時点で、この条項を発動し、「契約に基づき、売掛金の残額全額を、ただちに支払ってください」と、他の誰よりも早く、正当な権利として請求できるのです。
これは、取引先の経営が傾きかけた初期段階で、自社の債権を素早く回収するための強力な武器であり、会社のキャッシュフローを守る「お守り」なのです。
「自動的には発動しない」点に注意!
ここで最も注意していただきたいのは、この「期限の利益の喪失」は、自動的に発生するものではないということです。
売買契約書に、「どのような場合に期限の利益を喪失するか」を明確に定めておく必要があります。
例えば、以下のような条項を盛り込んでおきましょう。
【期限の利益喪失条項の例】
買主について、次の各号のいずれかに該当する事由が生じたときは、買主は当然に期限の利益を失い、売主に対し、本契約から生じる一切の債務をただちに弁済しなければならない。
- 本契約に基づく支払いを一度でも怠ったとき。
- 振り出した手形または小切手が不渡り処分を受けたとき。
- 差押え、仮差押え、仮処分、または競売の申立てがあったとき。
- 破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、または特別清算開始の申立てがあったとき。
- 事業を廃止し、または解散したとき。
- その他、資産、信用または支払能力に重大な変動が生じたとき。
今すぐ、自社の契約書を確認してください!
社長、あなたの会社の契約書には、この「お守り」がきちんと入っていますか?
古い雛形を使い続けていたり、そもそも契約書を交わしていなかったりするのは、無保険で車を運転するようなものです。
平穏な時にはただの紙切れに見えるかもしれません。しかし、いざという時、この条項が会社と、そして大切な従業員の生活を守る「盾」となります。
ぜひこの機会に、自社の売買契約書を見直してみてください。もし不安があれば、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。備えあれば憂いなし。未来の安心のために、今、行動を起こしましょう。
