経営不振から脱却するための5ステップ

売上減少や赤字など経営不振に陥り、何から手をつけて良いか分からず、不安な日々をお過ごしのことと存じます。しかし、悲観的になる必要はありません。一つひとつ課題を整理し、着実に行動することで、必ず道は開けます。

ここでは、赤字という厳しい状況から抜け出すための進め方を、5つのステップに分けて具体的にお示しします。参考にしてみて下さい。

ステップ1:現状を正確に把握する(会社の健康診断)

まず最初に行うべきは、自社の現状を客観的かつ正確に把握することです。「なぜ赤字なのか?」を感覚ではなく、数字で理解することが全ての始まりです。

  1. 財務状況の可視化
    • 試算表の確認:最低でも過去3ヶ月分、できれば過去1年分の試算表(貸借対照表・損益計算書)を用意し、売上、原価、経費の推移を確認します。特に、どの経費がいつから増えているのか、売上がどのように減少しているのかを突き止めましょう。試算表は、会計ソフトから出力したり、税理士さんにお願いして用意しましょう。
    • 資金繰り表の作成:今後3ヶ月〜半年間の現金の出入りを予測する「資金繰り表」を作成します。これにより、いつ資金がショートする危険があるのかを把握でき、先手を打つことができます。資金繰り表のフォーマットは、中小企業庁が公開している「中小企業の会計」ツール集に含まれてますので、ダウンロードしてご利用できます。
  2. 赤字の原因分析
    1. 把握した数字をもとに、赤字の根本原因を分析します。原因は一つとは限りません。
      • 売上の減少:顧客別・商品別の売上推移を確認することで、主要取引先の喪失、市場の変化、競合の出現、商品・サービスの魅力低下など根本原因が見えてきます。
      • 原価の上昇:原材料費の高騰、仕入先の変更など。
      • 経費の増加
        • 変動費(売上に比例して増減する費用):外注費、運送費など。
        • 固定費(売上に関わらず発生する費用):人件費、家賃、リース料、水道光熱費など。

ポイント:この段階では、一人で抱え込まず、顧問税理士・中小企業診断士などの専門家がいる場合は一緒に数字を確認してもらいましょう。専門家に協力してもらえれば、日々のデータが入力されていれば数時間でデータ整理は可能です。財務状況の可視化は正しく現状把握するための土台ですので、ここをすぐにでも手を付けましょう。
なお、売上や仕入れ等経費のデータが入力されておらず、紙の伝票が山積みになっている場合は、まずはデータを入力することと、今後は定期的に入力される仕組み(伝票を郵送して仕訳入力してくれる外注の利用や会計ソフトの導入、入力担当者や入力時間のルール化など)を早急につくりましょう。

ステップ2:緊急対策で出血を止める(応急処置)

現状把握で資金ショートのリスクが見えた場合、あるいは赤字が続いている場合は、すぐさま「出血を止める」ための緊急対策が必要です。キャッシュ(現金)の確保が最優先です。

  1. 資金繰りの安定化
    • 金融機関への相談:メインバンクに現状を正直に話し、追加融資や返済条件の変更(リスケジュール)を相談します。試算表や資金繰り表、改善計画案を持参すると、話がスムーズに進みます。
    • 公的融資・補助金・助成金の活用:日本政策金融公庫のセーフティネット貸付や、国・自治体が提供する補助金・助成金などを徹底的に調べ、活用できるものは申請します。
    • 資産の現金化:遊休資産(使っていない機械や不動産など)や、過剰な在庫があれば売却を検討します。
  2. 即効性のあるコスト削減
    1. 「聖域なき見直し」を断行します。
      • 固定費の削減
        • 役員報酬の一時的な減額。
        • 不要な保険、高額な接待交際費、購読していない新聞・雑誌、お付き合いで入会している団体の会員などの解約・退会。
        • 事務所の家賃交渉や、より安価な場所への移転検討。
        • 携帯電話やインターネット回線などの通信費プランの見直し。
      • 変動費の削減
        • 仕入先との価格交渉や、相見積もりによる見直し。
        • 無駄な残業をなくし、業務効率化を図る。

注意:従業員の給与やリストラは最終手段です。安易な人件費削減は、従業員のモチベーション低下を招き、かえって生産性を悪化させる危険があります。シフトの適正化も、時間をかけながら実施しましょう。

ステップ3:根本的な原因を取り除く(体質改善)

応急処置で時間を稼いだら、赤字の根本原因にメスを入れ、利益の出る「筋肉質な体質」へと改善していきます。

  1. 売上を増やす
    • 既存顧客の深耕:顧客リストを整理し、最近取引のない顧客にアプローチしたり、優良顧客に対してアップセル(より高額な商品)やクロスセル(関連商品)を提案したりします。新規顧客開拓よりアプローチしやすい既存顧客に注力して活動を行う中で、お客さまのお困りごとをリサーチし、自社でお役に立てるサービスを提案しましょう。
    • 商品・サービスの魅力向上:自社の強みは何か、顧客が本当に求めている価値は何かを再定義し、商品・サービスを訴求力を高めます。価格が適正かも見直しましょう。
    • 販路の拡大:WebサイトやSNSを活用したオンラインでの情報発信、マッチングサービスや展示会出展など、新しい顧客と出会うための販路を開拓します。
  2. 利益率を高める
    • 価格設定の見直し:安売りで競争していませんか?サービスの付加価値を高め、適正な価格で提供できているか検証します。法人向けビジネスの場合は、物価高騰に伴い適正な価格転嫁を求めるために、価格交渉の申し入れを検討しましょう。中小企業庁が公開している中小企業・小規模事業者の価格交渉ハンドブックなどを参考に価格交渉の準備をしましょう。
    • 業務プロセスの効率化:ITツール(会計ソフト、顧客管理システムなど)を導入して事務作業を効率化したり、稼働率をあげるために製造工程の無駄をなくしたりすることで、時間とコストを削減します。IT導入補助金など補助金も活用しましょう。

ステップ4:具体的な行動計画を立て、実行する(徹底的なPDCA)

分析や改善策を「絵に描いた餅」で終わらせないために、具体的な行動計画に落とし込みます。

  1. アクションプランの策定
    • 「何を」「誰が」「いつまでに」行うのかを具体的に決め、数値目標(例:3ヶ月で〇〇の経費を△△円削減する、新規顧客を〇件獲得する)を設定します。
    • 全ての課題に同時に取り組むのは困難です。インパクトが大きく、かつ実行しやすいものから優先順位をつけましょう。
  2. PDCAサイクルを回す
    • Plan(計画):アクションプランを立てる。
    • Do(実行):計画に沿って行動する。
    • Check(評価):定期的に進捗を確認し、計画通りに進んでいるか、効果は出ているかを検証する。
    • Action(改善):上手くいっていない点は原因を分析し、計画を修正する。

このサイクルを粘り強く回し続けることが、経営改善の鍵です。

ステップ5:一人で抱え込まず、専門家に相談する(公的支援機関や中小企業診断士など)

経営者は孤独です。しかし、一人で全ての答えを出す必要はありません。外部の専門家の知見を積極的に活用しましょう。

  • 公的な無料相談窓口
    • 商工会議所・商工会:地域の身近な相談相手として、経営指導員が様々な相談に乗ってくれます。
    • よろず支援拠点:国が全国に設置している無料の経営相談所です。中小企業診断士などの専門家が、幅広い相談に無料で対応してくれます。まずはこちらに相談するのがおすすめです。
  • 専門家
    • 中小企業診断士:経営全般の専門家。客観的な視点で経営課題の抽出から改善計画の策定まで伴走してくれます。
    • 税理士:財務・税務の専門家。数字に基づいた的確なアドバイスが期待できます。
    • 金融機関の担当者:資金繰りの相談だけでなく、取引先を紹介してくれることもあります。

ポイント:相談する際は、現状を隠さず正直に話すことが重要です。根掘り葉掘り聞かれるのは面倒かもしれませんが、正確な情報を提供しなければ、的確なアドバイスは得られません。

おわりに

赤字経営からの脱却は、決して簡単な道のりではありません。しかし、現状を正しく見つめ、一つずつ着実に対策を講じていけば、必ず光は見えてきます。

今回ご紹介したステップを進めるにあたり専門家への相談をご希望でしたら、当事務所の経営伴走サポートをご利用ください。