※本コラムは、第17回小規模事業者持続化補助金<一般型>(2025/6/13締切)が対象です。

  • 「よし、今年は小規模事業者持続化補助金を申請しよう!」
  • 「どうせなら補助上限額がアップする『賃金引上げ枠』を狙いたいな」

多くの経営者様が、今まさにこのようにお考えではないでしょうか。

いつも本当にお疲れ様です。

物価高や人手不足が続くなか、人気の「小規模事業者持続化補助金」は、販路開拓を目指す私たちにとって本当に心強い味方ですよね。

しかし、その申請、特に「賃金引上げ枠」には、意外な落とし穴があるのをご存知でしょうか?

それは、補助金で使われる「従業員」という言葉の定義が、実は2種類あるということです。

この違いを理解していないと、「もらえるはずだった補助金を逃してしまった…」、あるいは「要件を満たせず、不採択になってしまった…」という悲しい結果になりかねません。

今回は、そんな失敗を未然に防ぐための重要なポイントを、わかりやすく解説します。

「申請できるか」の従業員と「いくら貰えるか」の従業員は別人です!

結論から言うと、小規模事業者持続化補助金には、以下の2つの異なる「従業員」の定義が存在します。

  1. 【規模の判定用】常時使用する従業員
  2. 【賃金引上げ枠用】対象となる従業員

「え?同じじゃないの?」と思われた社長さん、ぜひこの先を読み進めてください。この2つは、数える範囲が全く違います。

① 【規模の判定用】常時使用する従業員とは?(範囲:狭い)

これは、そもそもあなたの会社が補助金の対象となる「小規模事業者」に該当するかを判定するための人数です。

  • 目的:事業の「規模」を測るため
  • 対象:正社員並みに常時働いている従業員が対象
  • ポイント労働時間の短い(正社員の勤務時間の3/4以下)パート・アルバイトは含めない

② 【賃金引上げ枠用】対象となる従業員とは?(範囲:広い)

一方、こちらは「賃金引上げ枠」を適用するために、実際に賃金を引き上げる対象となる従業員のことです。

  • 目的:「事業場内最低賃金」を引き上げる対象者を明確にするため
  • 対象パート・アルバイトを含めた、ほぼ全員
  • ポイント:公募要領では「役員を除く全従業員」といった表現がされており、雇用形態にかかわらず幅広く対象となります。

<含まれない人の例>

  • 会社の役員
    • 社長ご自身はもちろん、他の役員の方も従業員数には含めません。
    • なお、従業員との兼務役員は「常時使用する従業員」に含まれます。
  • 個人事業主ご本人と、同居している親族従業員
    • 生計を同一にするご家族はカウントしません。
  • 休業中の社員
    • (申請時点で)育児休業中・介護休業中・傷病休業中または休職中の社員 ⇒法令や社内就業規則等に基づいて休業・休職措置が適用されている者
  • パートタイム労働者(短時間勤務の方)
    • 日々雇い入れられる者、2か月以内の期間を定めて雇用される者、または季節的業務に4か月以内の期間を定めて雇用される者(ただし、所定の期間を超えて引き続き雇用されている者は「常時使用する従業員」に含まれます。)

つまり、常時使用する従業員からは除外されている、以下の従業員が含まれます。

  • パートタイム労働者(短期間の方)
    • 所定労働時間が同一の事業所に雇用される「通常の従業員」の所定労働時間に比べて短い者
    • 正確には、「1日の労働時間および1か月の所定労働日数が4分の3以下」もしくは、「1週間の労働時間および1か月の所定労働日数が4分の3以下」の場合、常時使用する従業員に該当しませんが、賃金引上げ枠の対象となる従業員になります。

具体例で見てみましょう!

例えば、ある飲食業の会社があったとします。

  • 社長:1名
  • 奥様(役員):1名
  • 正社員Aさん(週20時間勤務):1名
  • パートBさん(週20時間勤務):1名
  • パートCさん(週18時間勤務):1名
  • パートDさん(週15時間勤務):1名

上記の場合、以下の人数になります。

  • ① 【規模の判定用】常時使用する従業員:3名
  • ② 【賃金引上げ枠用】対象となる従業員:4名

つまり、パートDさん(週15時間勤務)は、①には含まれませんが、②には含まれる、とういことです。

この違いを知らないと起こる「悲劇」

「なるほど、定義が違うのはわかった。でも、それがなぜ問題なの?」

それは、この違いを知らないことで、以下のような「悲劇」が起こりうるからです。

  • 悲劇①:申請チャンスを逃してしまう

「うちは正社員がいないから、『常時使用する従業員』は0人。だから賃金引上げ枠なんて関係ないや…」

→ 大間違いです! 短時間勤務のパート・アルバイトさんだけの事業所でも、その方々の時給を「事業場内最低賃金+50円」以上に引き上げれば、「賃金引上げ枠」を申請できるのです。この勘違いで、補助金の上限額アップのチャンスを自ら手放してしまうケースは少なくありません。

  • 悲劇②:要件を満たせず不採択になる

「よし、『従業員』の給料を上げよう!」と、正社員の月給だけを引き上げて申請した。

→ これでは要件を満たせない可能性があります。 なぜなら、「賃金引上げ枠」で問われるのは「事業場内最低賃金」、つまり、あなたの事業所で働く最も時給の低い従業員(多くは短時間勤務のパート・アルバイト)の時給を引き上げることだからです。正社員の給与だけを上げても、パートさんの時給がそのままでは、要件未達と判断されてしまいます。

まとめ:社長が今すぐ確認すべき2つのポイント

いかがでしたでしょうか。同じ「従業員」という言葉でも、目的によってこれだけ意味が違うのです。

補助金申請で失敗しないために、今すぐ以下の2点を確認してみてください。

  1. 【自社の規模の確認】
    • まず、自社の「常時使用する従業員」は何人かを正確に把握し、補助金の対象となる「小規模事業者」であるかを確認しましょう。
  2. 【賃上げ計画の確認】
    • 次に、「賃金引上げ枠」を狙うのであれば、短時間勤務のパート・アルバイトさんを含めた全員を念頭に、「誰の時給を」「いくら上げるのか」を具体的に計画しましょう。

補助金の制度は少し複雑ですが、正しく理解すればこれほど力強い味方はいません。

この記事が、社長の皆様の事業をさらに前進させる一助となれば幸いです。